第60話 昇る鷲と墜ちる鶴
機巧暦2140年2月・ギリシャ・セレス・日本街
「なぁ康介、その・・・・・・・禁忌人形が何なのか分かってるのか?」
「分からない。ユーリシアと戦争する為に新田中将が連合王国と同盟を結んだみたいなんだが、その時に連合王国の最新の機巧技術導入も含めて禁忌人形の桜華が贈られてきたんだ」
康介はキョトンとした表情で暴露する。
(ビンゴだったか・・・・・・・・・連合王国には友那の件があるし俺も瀕死の状態になったなぁ。奴らだけは叩き潰さなければならないな)
「機巧人形と禁忌人形っていうのがあってな魔力を有した鋼材を人型に型取ってそこに魔術回路と心臓部にあたる魔術宝珠を埋め込んだのが機巧人形。その一方、生体を使ったモノが禁忌人形だ」
「生体って何だ?」
(コイツ禁忌人形を保有しているにも関わらず知識ゼロなのかよ・・・・・・・・)
「生体っていうのは生身の人間だ。生死に関わらず肉体に魔術回路と魔術宝珠を埋め込んだのが禁忌人形だ。倫理上は完全なアウトだから魔術協会は禁忌人形の製造や運用を禁じているんだ。禁じているにも関わらず製造し運用しているのがイギリス連合王国だ」
「・・・・・・・・それじゃ俺の桜華は」
「誰かの遺体だろうな・・・・・・・それか生きた人間かもな。生きながら魔術回路を埋め込まれた可能性もある。まあこの目で見た訳ではないから分からねぇけどな」
「そ、そんな俺はどうすりゃ」
「事情は知らねぇけど普通の人間として接してやれ」
俺がそう言うと康介は静かに頷く。
その後、膳を下げ講和条約が記された書類に印を押す。俺は国章の鷲が模られた印を押し康介は鶴が模られた印を押す。それぞれ印が押し終わると社から出る。
そしてーーーーー
「これで俺らは戦わなくて済む。康介、ギリシャを宜しく頼む」
「ああ。柚希もルーマニアやブルガリア、セルビアの民を宜しく頼むぜ」
康介は背を向ける。
「なぁ柚希、もし俺らが戦ったらどちらが勝つと思う?」
「講和条約を結んだばっかりなのにまた戦いの話か? まあいいや。魔術の腕は康介が上。統率や戦術においては俺のが上だ」
「お前は盾の魔術、俺は剣の魔術だ。相性は最悪だろうなァ。姫路から聞いたぜ。お前、俺が差し向けた大軍を包囲殲滅したらしいじゃないか。それは魔術か? それとも戦術や統率か?」
(戦術と魔術・・・・・・どちらを使ったかって事か)
「戦術だよ。包囲殲滅したわけじゃねぇよ。降伏させただけだ」
「ハァ・・・・・・・カンナエみてぇな事をやられちゃ敵わねぇわけか・・・・・・・・・・同じ転移者なのにどうしてこんなにも差がついちまったんだろうな」
康介はそう呟くと此方を振り返る。彼の紅い瞳にじんわりと涙が浮かぶ。
「・・・・・・・・・」
気弱で優柔不断な1羽の鶴はやっとの事でタギアという止まり木を得てそこから大きく羽ばたこうとするも1羽の鷲により地に叩き落とされてしまった・・・・・・・




