第59話 講和会議
機巧暦2140年2月・ギリシャ・セレス日本街
「一応、聞くけど講和条件はあれでいいか?」
「問題ないから此処に来たんだ」
「承知しなかった場合どうするつもりだったんだ?」
(まあ聞かなくても予想は出来るけど一応聞いておくか)
俺の問いかけに康介はドヤ顔でこう言う。
「抵抗するに決まってるんだろ。魔力を用いればお前の軍勢など赤子の手を捻るより簡単だ」
「なるほどな。講和条約に承諾した理由は何だ? 今の安寧か?」
「アハハッ安寧を選ぶというならお前の条約を蹴る。俺の背後に欧州本部がいるからな。万一、お前らが攻めてきても味方が援護してくれる・・・・・・・はずだったんだが・・・・・・・・・・」
康介はそう言いながら俯く。
(見捨てられたという事か・・・・・・・確かにルーマニアやブルガリア、セルビアが陥落したにも関わらず欧州本部は一兵も援軍を送ってこなかったな)
「康介・・・・・・言いづらい事を話してもいいか?」
「な、何だ?」
「俺についてきても道のりは過酷なだけだ。だから俺はギリシャだけを自治区とした。康介の判断で物事を決められるからな。植民地支配しては帝国の争いに巻き込まれる。だから敢えて条約には自治区と表記したんだ」
「・・・・・・・・お前はバルカン半島を制した訳だ。これからどうするつもりなんだ?」
「俺はドイツ帝国の再建に取りかかる。アイネスをこの地に招いて新帝国の皇帝として擁立して万民平和の世を目指す」
俺の決意を聞いた康介は口をあんぐりと開ける。
「本気で言っているのか? お前・・・・・・・? 平和な世をつくるなんて宝くじを当てるより難しい。いや不可能だ!! 柚希、理想主義で動くと碌なことないぜ」
「俺を信じてくれた民や仲間の為に戦うんだ」
「ふぅ~なるほどな。お前だけの楽園をつくるって訳か・・・・・・どれだけの犠牲が出るだろうな」
康介は目を細める。
「まあ俺は理想を追い求めるのも一興だと思ってる。引かれたレールの上を走るなんてつまらないじゃないか。さてお堅い話しはこれでお終いだ。なぁ康介、お腹空いていないか?」
「あぁ・・・・・・・まあ朝飯抜いたから腹は空いているな」
「分かった。これ誰か!! 手配した膳を2つ持ってきてくれ!!」
俺の声に外にいた配下が膳を持って社内に入ってきて康介と俺の前に膳を並べて一礼すると社から出ていく。
「こ、これは・・・・・・・・・」
「俺はバルカン半島に入ってから真面なモノを口にしてねぇんだ。戦場だったから缶詰や硬くなったパンばかりでさ」
膳には白米、味噌汁、川魚の塩焼きがのっている。日本街という事もあり材料は直ぐに手に入ったのだ。
「こんな料理はタギアには無い。どう手配したんだ?」
康介は驚きながらそう言う。
「大日本帝国出身の部下がいてさ。料理の腕もピカイチなんだ。材料はこの日本街の市場で買ったんだが・・・・・・・口に合うかどうか」
俺はそう言いつつ塩焼きを口にする。分厚い白身にほのかに香る塩の味。味噌汁は少し濃いが美味しい。動きっぱなし俺ら軍人には塩分は必要不可欠。味は濃いくらいがちょうど良いのだ。
「美味いな。懐かしい味がする」
「そりゃ良かった」
「なぁ柚希、さっき言っていたアイネスっのはどんな奴なんだ?」
康介は口に白米をかき込みながらそう言う。
「俺と瓜二つな姿だ。歳は確か12くらいだったかな・・・・・・・俺がアルフレート家に養子入りしてから何かと懐かれててさ」
「皇帝の一族か羨ましもんだ。将来は安泰じゃねぇか・・・・・・・クッソ! 従順ロリっ娘に懐かれるとは羨ましい奴だ。大体なんで女に鈍いお前がハーレム作ってるんだよ!!」
「仕方ねぇだろ。なんか知らねぇ内に女の子が寄ってきたんだからよ!!」
(また康介の面倒くさい絡みが始まったか)
「ったく!! お前の周りに何人いるんだよ?」
「あぁ~、師匠に陛下、友那にグレイス、それから最近スカウトした参謀のフレア・・・・・・・」
「すげぇな・・・・・・こっちは桜華一人なのに」
康介は呆れたようにそう言う。
「オウカ?」
「桜の華と書いて桜華だ。禁忌人形ではあるけどな」
(禁忌人形だと・・・・・・・・!? 大西桜の裏に連合王国がついているのか)