第57話 忠臣の説得
機巧暦2140年2月・ギリシャ・アテネ
「申し訳ありません。我が軍は壊滅し殆どがアルフレート公の捕虜となりました・・・・・・・・・」
「准将だけが戻ってきたという訳か。まさか柚希に降ったのか?」
「ま、まさか。私は長官の臣下。裏切る事は致しません」
「・・・・・・・・・」
姫路准将はグレイスから講和条約が書かれた書類を手にして僅かな兵士らと共にアテネの統監府へと戻っていた。目の前で跪く姫路准将に榊原は疑いの目を向ける。
「主力部隊が捕虜となった今、我が軍はアルフレート軍に対抗出来る力はありません。講和しては如何でしょうか」
「なっ!? 貴様は柚希に講和を申し込めと言うのか!?」
「はい。此方が講和条約の草案にございます。ご覧下さい」
「・・・・・・・・・む」
榊原は姫路准将から草案を受け取る。
パサッ
「1つルーマニアとセルビア、モンテネグロ、ブルガリアをアルフレート公に割譲する。2つ榊原公が大日本帝国・欧州本部との関係を絶ち独立する。3つギリシャは榊原公の領土としてドイツ帝国ギリシャ自治区とする・・・・・・・こんな条約受け入れられるか!! 欧州本部と関係を絶ち切れだ!! ふざけるな!! これでは柚希に利するだけで此方は損するだけだ。こ、この草案は本当に貴様が考えたのか!?」
「アルフレート公の右腕と言われているグレイスからその書状をもらいましたから誰が書いたかは分かりません」
「誰が書いたか分からない!? 柚希が書いたに決まっているだろ!! 貴様はやはり柚希側にまわってこの俺を・・・・・・・・・っ!!」
榊原は紅の瞳に怒りを宿した。
「アルフレート公は過去の事を水に流したいと涙ながらに申していました。アルフレート公は貴方と戦う事を苦痛に感じておられるのです!! どうか講和条約をお受けなさいませ。この講和条約には賠償金請求や自治区に監視としての軍を置く事も記載されておりません。アルフレート公にその気があればもっと過酷な条約にする事も可能だったはず。何故それをやらなかったのか榊原長官は分かりますか?」
「・・・・・・・・・アイツの事は分からないな。過酷な条約を後で付け足すのだろう」
「旧友の事を思ってだと思います!!」
榊原の言葉に姫路准将が声を荒らげる。
「大日本帝国は俺の母国だ。関係を断ち切るなど出来るか!!」
「榊原長官・・・・・・・・・お願いでございます。欧州本部は他国の恨みを買っております。間者を送り君臣の仲を裂き、さらに移民を送り反乱を起こさせています。このような事をやるような国に未来はありません。御身や貴方の大切な存在である桜華様を守る為にも講和を!! 」
「そ、そこまで言うなら・・・・・・・・」
さすがに桜華まで出されるとイヤとは言えなかった。




