第54話 和平の準備
機巧暦2140年2月・モンテネグロ・リム川流域
「敗軍の将・姫路がアルフレート公に降伏致します」
「・・・・・・アンタの降伏は受け入れるわけにはいかない。そのままギリシャの統監府に逃げるといい」
「え?」
俺は跪く姫路に冷たくそう言う。軍中に白旗が揚がった事を確認した俺は配下の制止を振り切り防御魔術を使いつつ単騎で敵軍に突っ込み敵将を捕縛し今に至る・・・・・・・
「まあアレだ・・・・・・何て言うか。講和の為の調停者になってもらいたい。10万もの軍を率いているという事は康介から其れなりの信頼があるって事だろうから」
「・・・・・・・調停者?」
「打ち明けてしまう事になるけど攻勢の限界にきているんだ我が軍は。だからここで康介と講和を結びたい。部下を殺された事は悔しい。でもいつまでも根に持っていては前に進めないんだ。水に流す事にした」
「分かりました。喜んで調停者になりましょう」
少し間を置き姫路は頷く。
「それからあと一つお願いがあるんだが何処かの都市にて兵を休ませたい。案内してくれないか?」
「分かりました」
その後、姫路軍の残兵と自軍をまとめるとリム川流域からブルガリアに向けて進軍を開始する。ブルガリアでモンテネグロの戦後処理とブルガリア南部との講和を行う予定だった。
ブルガリア・クルジャリーーーー
モンテネグロのリム川流域を東に引き返しにセルビアからブルガリアのクルジャリに進むと湿地が広がり民家もまばらで人気も無くなる。やはり農業には向いていない土地らしく畑や田んぼは一切ない。商業が盛んなルーマニアとは大違いだ。
「かなり痩せた土地だな」
「統監府のあるギリシャやロシア=ソビエトと国境を接しているルーマニアを開発の最優先にまわしてしまったからね」
「なるほど」
(開墾すりゃ幾らか使い物になるかな・・・・・・・・)
「アルフレート公、見えてきました。あれがです」
目に映ったのは赤レンガ造りの洋館。規模はそこまでデカくはない。洋館の周りには村々が点々とあるだけで寂しさを感じる。
その後ーーーー
「ふぅ~ やっと落ち着けるぅ。グレイス、双方の損害はどれくらいだ?」
「我が軍は3万の内1万余りを失い、敵軍は8万の内5千余りを失っております」
「ブルガリア南部に攻め込む兵力を失ったな。まあ兵力が残っていても攻め込むつもりは無いけどな」
洋館の広間の長椅子に腰を下ろした俺は溜息をつく。広間の奥に洋館の主の方が座る立派な椅子があったが一刻も早く座りたかった為、手前の長椅子に腰を下ろしたのだ。
「講和条件はいかが致します?」
「これを姫路に渡してくれ講和条約締結はギリシャとブルガリアの境にあるセレスでやるつもりだからと伝えておいてくれ」
「分かりました」
書類を受け取ったグレイスはその場を去る。俺一人が広間に残される。
(異世界に召喚されてからもう3、4年になるか・・・・・・・あっという間だったな・・・・・・・金に困る事はない身分にまで出世する事が出来たし後は今の地位を維持するだけだ)
 




