第50話 モンテネグロの降伏
機巧暦2140年2月・バルカン半島ブルガリア・ムサラ山砦・別働隊本営
「包囲はしたがこれからどうするか・・・・・・・・このまま一気に踏み潰すか」
「追い詰められた者ほど何をしでかすか分からないものだ。軍司令官の兵力はたかが千人余り。敵に無駄な抵抗をされては損害が出る」
「・・・・・・分かった。誰か!!」
「何でしょうか」
陣営は築かず馬上で次なる作戦が決まると第3軍司令官は将校を呼ぶ。将校も騎乗した状態で第3軍司令官と対した。
「モンテネグロ軍を率いている将に我が軍への投降を薦めてきてくれ。私や帝国への投降ではなくブダペスト王であるアルフレート=フォン=ユズキへの投降だという事をキッチリと相手に話してくれ」
「御意!!」
命を受けた将校は馬に鞭を打つと砦に向かって走り去る。
「何故、帝国への投降じゃないんだ?」
「帝国は内部闘争が激しくいつ崩壊するから分からない。いつ崩壊するか分からない帝国政権よりも未来あるブダペスト王政権についた方がいい。だから私は帝国ではなくユズキ少将への投降をと言ったのだ。ユズキ少将個人に仕えるのみなら相手も承諾するはず」
「なるほど」
ーーーーブルガリア・ムサラ山砦・本営
「司令官、帝国軍より使者が参りました」
「降伏を薦める使者だろう・・・・・・・ここへ通せ」
「御意」
伝令兵からの報せにモンテネグロ軍司令官はため息をつく。軍司令官自身は降伏する気などサラサラ無かった。
そしてーーーーーー
「オーストリア第3軍司令官の使者に御座います」
「うむ。何の用で来た?」
「我が軍の旗下に加わりませんか?」
「降伏する気は無い。私はこのまま死ぬのが相応しい人物なのだ。華々しく敵に特攻してな」
「・・・・・・・」
モンテネグロ軍司令官はそう言うとチラリと参謀を見る。参謀はまた死ぬ事を考えている軍司令官にため息をつく。
「確かに負けが確定した以上みっともなく生き恥を晒すよりは華々しく死ぬ事は良いと思います。私も将校ですから司令官のお気持ちはよく分かります。でも私自身、死ぬ事は逃げる事だと最近悟りました。生きて後世に名を残す事が将校としての栄誉であると・・・・・・・・・・死ぬだけが将としての栄誉ではありません」
「・・・・・・誰かに感化でもされたのか?」
「感化というより同調ですね。我が軍の総指揮を執っているアルフレート=フォン=ユズキ公は仁義に厚い方です。此度の出征は亡き仲間の仇をとると同時に既に瓦解寸前の帝国から仲間や自身を守るために御座います」
「灰色の亡霊か・・・・・・・・・亡霊は瓦解した帝国から離れて第3勢力を築くつもりか?」
「いえあくまで瓦解寸前の帝国を睨むという形です。帝国に忠誠を誓うというより陛下に忠誠を誓う形をとっております。今は新たな脅威に立ち向かう為に同志を募っている感じです」
「新たな脅威とは?」
「尊王攘夷というテロ思想を帝国内に広めた大日本帝国・欧州本部と、魔術による人体錬成を行っているイギリス連合王国です。この勢力を完膚なきまでに潰さなければ平和はありません。共に事を成しましょう軍司令官」
モンテネグロ軍司令官の問いに使者は瞳を輝かせながらそう言う。
「・・・・・・・分かった。君たちに降伏しよう」
「ありがとうございます」
軍司令官は胸に付けている羽ばたく鶴の彫り物が施されたバッチを外すと地面に投げ捨てた。羽ばたく鶴は欧州本部の国章でそれを投げ捨てるのは決別を意味していた。




