第49話 ムサラ山の戦い 後半戦
機巧暦2140年2月・バルカン半島ブルガリア・ムサラ山麓
「どうだ奇襲は成功か?」
「敵はパニックに陥って大混乱状態だ。人っていうのは極端に火を怖がる。特に視界がきかない山林に火の手が上がれば混乱は必至になる」
フレアは燃え盛るムサラ山の山林を眺めながらそう言う。戦力で劣る別働隊は敵の心理をつく形の作戦をとるしかなかったのだ。
「そう言えば敵はムサラ山の後方に砦を築いていると偵察部隊から報告があったな」
「砦か・・・・・・・・もしもの時の為の退路という感じか。火は有効的な攻撃手段だが敵の主将を逃してしまう戦法ではある。この戦いが終わり次第追撃する必要があるな」
「いや追撃の必要は無いぞ」
「何故だ? さらなる損害を与えるには追撃は必須だ」
フレアの言葉にオーストリア第3軍司令官は首を傾げる。
「追撃はリスクが高すぎるからだ。特に今のような守勢にまわっている敵を追撃するのは悪手でしかない。敗走中に伏兵が配置してある可能性もあるし、わざと拙らの軍を引き延ばした上で連絡網を絶たれる可能性だってある」
「なるほど私のような猪突猛進の将は罠に気づかない可能性が高いから危ないな・・・・・・・・・ここはどうするべきか」
「・・・・・・・・・ブルガリア軍に備える事だ。砦に逃げ込んだモンテネグロの敗残兵を包囲し降伏させて旗下に加えるのが上策だ」
「分かった。それでいこう」
フレアと第3軍司令官は本隊千人を率いると後方の山を背後から襲うのではなく砦を包囲するためにムサラ山の南側から敵の砦に向かった。
砦ーーーーー
「生き残った兵はどれ程だ?」
「180名余りです。他は散り散りになりました・・・・・・・」
「そ、そうか。武器食糧は何日くらい持ちそうだ?」
ムサラ山から撤退したモンテネグロ軍司令官は砦の櫓から燃える渓谷を眺めていた。生き残った180名もほとんどが負傷者でとても戦える状況ではなかった。夜が明け空は青々と澄んでいたが軍司令官の心は曇り鬱々としていた。
「・・・・・・・2日分しかありません。食糧のほとんどはムサラ山に運び入れましたからこの砦には僅かしかありません」
「・・・・・・・・・・」
「し、司令官 申し上げます!!」
「?」
「どうした?」
軍司令官の前に伝令兵が駆け寄ってくる。
「砦を包囲されました」
「そうか。防戦しようにも武器食糧が足りぬ。軍司令官ここはブルガリア南部に撤退なさいませ。180名にて活路を開きます」
「参謀もういい。私の運命は決まった・・・・・・・・・無駄に足掻くより死を選ぶ」
カチャ
モンテネグロ軍司令官は腰に差していた短剣を引き抜くと自らの首にあてがう。
「お止め下さい!! 貴方に死なれてはモンテネグロはどうなるのです!!」
「と、とめるな!! 参謀!!」
ドサッ!!
「クッソ!!」
カランッ!!
参謀は軍司令官の腕を掴み自害を思いとどまらせる。冷静さを取り戻した軍司令官は短剣を地面に叩きつける。
「貴方だけの命ならば煮るなり焼くなりされて結構ですが、貴方には民や臣もおります。死なれては困ります。以後身勝手な行動は慎むようお願いします」
「ハァ・・・・・・・分かった」