第17話 初講義
機巧暦2139年10月・ポツダム高等士官養成学園
「え~と、最初は基礎中の基礎である包囲殲滅戦術だな」
「教官、包囲殲滅なんてがっちり取り囲んでハチの巣にすれば簡単ですよ?」
「初歩すぎない?」
「つまらないからほかの戦術を教えてよ」
包囲殲滅は初歩的な戦術あり重要な戦術だ。単に敵をがっちりと包囲して重火器でハチの巣にすれば上手くいくような単純な戦術ではない。
「たしかに派手な戦術ではないが、高難易度だけど成功すれば大ダメージを与えられる有効な戦術だよ」
▽▽○○○○○○○○○▽▽
▽▽○〇〇○○〇〇○○▽▽
□□□□□□□□□□
□□□□□□□□□□
■■■■■■■■■■■
▲▲●●●●●●●●●●●▲▲
▲▲●●●●●●●●●●●▲▲
「まあ大雑把な図ですまない・・・・・・・・・・これで良しと。〇と●が歩兵部隊で、□と■が槍部隊、△は騎馬部隊だ。白い駒の自軍が黒い駒の敵軍を包囲するにはどうしたらいいと思う? ちなみに駒の数は敵軍のが多い」
俺は黒板に図を書いた。この包囲殲滅戦モデルはもちろんハンニバルのカンネーの戦いだった。まあうろ覚えで書いたため合っているか分からないが・・・・・・・・・・・
「教官、包囲殲滅は必ず自軍の数が敵軍の数を上回っていないとできませんよ?」
「これは下手に少人数で包囲したら自軍が壊滅するな」
「確かに普通ならお前らの言うとおり、白い駒が負けるだろうな。この陣形は騎馬隊の強さと中央に配置された歩兵部隊の粘り強さが勝利への鍵となる」
「それは根性論では? 根性論で勝てるモノなのか?」
「たしかに」
「根性論ではない。自軍の騎馬隊に馬術に長けている者がいれば匠に敵軍の騎馬隊を討ち破ることは可能だ。敵軍の騎馬隊を敗走させた後は敵軍の歩兵部隊の背後に回り込む。そして自軍の歩兵部隊は鷲が翼を広げるように敵軍の左右を囲ってしまえば包囲殲滅の完成というわけだ」
生徒たちは黙って聞いていた。
「一番は指揮官のカリスマ性と軍全体の連携が大切になってくる。さっき高度な作戦と言ったのはこれが理由だ。さぁ今日の講義はここまで!!」
廊下にてーーーーーーー
「さすがは帝国軍だな」
「勝ってよかった~」
「長らく膠着した状態だったからどうなるかと思ったわ~」
うちの生徒たちや他クラスの生徒たちが廊下の壁にでかでかと貼り出されている紙面を眺めていた。
「なんだ?」
「ああ教官、帝国軍がベルギー王国のモンス要塞を突破したみたいだ。このまま順調に進撃すれば共和国の首都パリまで楽々攻略出来ますよ」
「この戦争おそらく3週間で片がつくな」
「共和国は数は多いが腰抜けが多いと噂に聞くからな。帝国軍にかかれば瞬殺よ! プロイセン=フランス戦争の二の舞だ!!」
生徒や教官が口々にそう言った。
・・・・・・・・モンス要塞で約3週間は足止めさせられていたいうことか。モンス要塞は海上から上陸部隊で攻撃をかければ一日足らずで落とせるはず・・・・・・・・なんでこんなに時間がかかったんだ???