第46話 北か東か
機巧暦2140年2月・ドイツ帝国フランクフルト・宮殿
「レーゲル宰相、タギアにいる近衛兵からの報告書にございます」
「ありがとう」
パサッ
使者から報告書を受け取ったレーゲルは一通り目を通すと机の上に投げる。帝国が分裂した事と相次ぐ粛清により人材不足が深刻となりレーゲルは寝る間を惜しんで政務に励んでいた。そのため彼の表情は酷く疲れ将校時代の覇気は何処へやらといった感じだ。
「報告書には何と?」
「陛下が勝手にユズキをオーストリア=ハンガリーとバルカン半島の統治を任せて王に封じたとある。ユズキをこれ以上増強させるわけにはいかない。何処かで勢力を完全に削ぎ落とそうと考えていた矢先に・・・・・・・・王に封じるとは陛下は何も分かっていない」
「バルカン半島攻略前に何か手をうたなければなりませんね。半島攻略が完了した頃にはユズキ少将はバルカン半島とオーストリア=ハンガリーの民心を得てしまいます」
レーゲルはユズキをバルカン半島に行かせたのを失策と判断していた。今やアルフレート家の一員であるユズキは影響力も権力も絶大。これ以上の増強は他国を刺激し再び戦争になりかねないと危惧していた。
「アルフレート家は問題ばかり起こすな・・・・・・・緊急会議を開くから幹部を集めてくれ」
「分かりました」
その後、緊急会議にてーーーーー
「アルフレート=フォン=ユズキがアイネス帝からブダペスト王に封じられたと報告があった。詳しい情報は各々に配った書類に書いてあるとおりだ。ユズキが王に封じられたとあれば我々の脅威は北のカーチス、東のユズキと2つになった。そこで我らは北と東のどちらに集中すべきか幹部らの意見を聞きたい」
「宰相、1ついいか?」
「何だ?」
手を挙げたのは元第五師団長のアレクサンドル=ハリウスだ。彼女は新都入城後に自身の師団をレーゲルの師団に編入させて自分は師団長を辞めてレーゲルの幹部として参入していた。第六師団長のナーレス=エルヴィスも同様だった。
「ユズキは敵ではなく味方だ。今現在の宰相の敵は北のカーチスだろう?」
「宰相、ハリウスの言うとおり有能な味方を敵にまわしてはなりません。余計な疑いは却って自身の禍となります。今はノイブランデンブルク王討伐に集中すべきです」
ハリウスの進言にエルヴィスも賛同する。
「・・・・・・・・・分かった。ユズキには私から釘を刺しておく。どんな理由であれ、これ以上の増強は許さぬ。身の程を弁えろとな」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
アイネス帝は傀儡に過ぎず実権はレーゲルが握っていた。皇帝が幾ら命令を出そうが宰相がゴーサインを出さなければその命令は無効となるシステムとなっていた。皇帝が出した命令を勝手に受けたユズキはレーゲルから叛逆と見なされたのだ・・・・・・・・・
 




