第40話 奴隷商館の地下牢
機巧暦2140年2月・ブルガリア・ブルガス港・奴隷商館
「お待ちしておりました勇者様。さぁ此方へ」
「ああ」
奴隷商館に着く頃には日が落ちていた。ゴシック様式の建築物で中々に煌びやかな装飾が施された建物だった。俺が到着すると門前で奴隷商人が出迎える。
「俺に買わせたい奴隷っていうのは?」
「アフリカ大陸から入手した女奴隷でしてね~ 聡明過ぎるのが玉に瑕なようで買い手がつかないんですよ」
「奴隷なのに聡明なのか?」
奴隷商人と俺は商館のロビーを抜け廊下を歩く。商館内は照明が薄暗く不気味な感じが漂っている。
「アフリカ大陸の数ある種族の中でも武勇と知略を以て勢力拡大をした武狼という種族の王女だと聞いております」
(武狼・・・・・・・か)
「父上、武狼と言えば我が種族である臥龍と因縁ある種族です。なぁラム」
「そうですね。レムの言うとおりアフリカ大陸を二分して対決しましたからね」
奴隷商人の言葉にラムとレムが反応する。
「二分して武狼族と臥龍族はどちらが勝ったんだ?」
「「・・・・・・・・・・」」
「アフリカ大陸の植民地欲しさに進出したイギリス連合王国が漁夫の利を得ただけだったみたいで、武狼も臥龍も連合王国に滅ぼされて王族や市民は奴隷として売られましたね・・・・・・・・」
奴隷商人は気まずそうに呟く。
(なるほどそういう事情ならば武狼の王女は復讐に燃えている可能性はあるか。復讐心を上手く利用すれば仲間に出来るかもしれない)
奴隷商館・地下牢ーーーー
「勇者様、この地下牢には様々な種族が繋がれております。いずれも売れ残りにございます」
「・・・・・・・・」
「臭いが・・・・・・・・・」
「これ! レム、失礼だろう」
廊下の壁際にある隠し階段から地下牢に降りた俺らを襲ったのは強烈な獣臭だった。地下牢はロウソクが複数本灯されているだけで暗い。うめき声やらすすり泣き声が聞こえてくる・・・・・・・
(こんな場所に王女がいるのか。なんと哀れな)
「商人、目当ての奴隷の名は何と言う? あとその者がいる牢はどの辺りだ」
「確か・・・・・・フレアと言い、この牢の突き当たりにございます」
「フレアだな。分かった。牢の鍵を貸せ」
「し、しかし・・・・・・フレアを飼い慣らせる者はおりません。剣と鞭を以てしなければ相手出来ません。ましてや牢の中に入るなどもってのほか!!」
奴隷商人は鍵を俺に渡す事を渋る。
「いいから鍵をくれ。こんな場所で死ぬならそれは天命だろう」
「わ、分かりました」
カチャ
「ありがとうございます。あとラムにこれを預ける。宝剣があっては相手に余計な警戒を抱かせるからな。交渉や話し合いに剣は要らない」
ガチャ
腰の宝剣を外すとラムに渡す。
「どうかご無事で」
「父上・・・・・・・・」
「勇者様、どうなっても私は責任とりませんぞ。先ほどご忠告しましたから・・・・・・・」
「分かってる。いってくる」
俺は心配する3人を置いて牢の突き当たりを目指して歩く。




