第39話 奴隷は信頼出来る
機巧暦2140年2月・バルカン半島ブルガリア・ブルガス港
「いや~お元気そうで何よりです勇者様」
「帝国から此方に商売を移したのか?」
「はい。何しろドイツ帝国では奴隷廃止によって奴隷売買は禁止となりましたからね~。バルカン半島ではあれば奴隷売買しても問題ないと思いまして」
奴隷商人は空いている席に座りひと息つくとそんな事を言う。
「生憎、このルーマニア、ブルガリアも帝国領となった。商売は難しいだろうな。奴隷商人よ、もし商売を続けたいのなら中東に行け、あそこは世界のオアシスだ。豊富な食糧と金、綺麗な水がある。そこで商売を続ければよい」
「これはお気遣いありがとうございます」
「ところで商売はどうなんだ?」
「いや~それが勇者様が買われた奴隷が大変評判が良くて勇者様が活躍されて名が上がる度に私共の商売も売り上げがうなぎ登りでして~ エヘヘ。勇者様には感謝していますよ」
(相乗効果って奴か・・・・・・・・・)
「「・・・・・・・・」」
「ところで勇者様、もう1人買って頂きたい商品がございまして商館までお越し下さらぬか」
「・・・・・・・・分かった」
「ありがとうございます。では私は先に商館に戻りますので・・・・・・後ほど」
「ああ」
その後ーーーー
「父上、また奴隷を購入するおつもりで?」
「・・・・・・・・リムがいなくなってから1人の負担が増えた。だから負担を減らすためにも新たに1人を迎える必要があってな」
「わざわざ奴隷を迎える必要がありますか? お父様は地位も名誉も知名度もあります。それを以て為れば人は集まるかと・・・・・・」
ラムが苦言を呈する。
「信頼というか窮地に陥った場合に絶対的に見捨てない相手が必要なんだ。ルーマニア軍司令官や第3軍司令官はアテにならないし窮地に陥ったり不利になったら裏切るかもしれないしな」
(奴ら所詮は他国の人間だし信頼には値しないしな)
「父上・・・・・・極度に何かを恐れてはいませんか? 恐れているというより怯えているような」
「・・・・・・・・灰色の亡霊と呼ばれた俺が何を恐れるか。俺は何も恐れてはいないし怯えてもない・・・・・・ラムはどう見える?」
俺はラムに意見を求める。
「お父様の今の瞳は奴隷だった頃の私やレムと同じ瞳をしています。怯え恐れています」
(そ、そんな・・・・・そんなわけあるか!!)
ふとテーブルに映る自分に目をやると酷く怯えきった俺がいた。瞳は焦点があっておらず泳いでいる。
(怯えているとは・・・・・・・・)
「・・・・・・・ハァ、それは気のせいだ。それ以上は追求しないでくれ」
「分かりました。お父様」
「話を変えよう。俺には1つの悩みがある。ブルガス港から南進する策は良しとしてその後、どのように進めていくか全く思い浮かばない・・・・・・」
俺はそう言うとラムやレムの顔を見る。2人は困った表情で目を逸らす。
「申し訳ありません。父上、私にそのような事を言われても返す言葉がない」
「・・・・・・お父様」
(そうだよな。お前たちは兵を率いる将。参謀じゃないんだ。策なんて考えられるはずなんて無いんだったな)
「そこでだ。俺は軍略に通じている人物をスカウトしようとしてね・・・・・・・・今回、奴隷商人の話に乗ったのはそれが理由なんだ」
「奴隷に軍略の通じている人物なんていないと思いますが?」
「それは行ってみなきゃ分からないだろ? さぁ行くぞ」
俺は立ち上がると奴隷商人が待っている商館に向かった。