第37話 ブルガス港
機巧暦2140年2月・バルカン半島ブルガリア・ブルガス港
「父上ぇ!! 父上ぇ!!」
「な、何だ・・・・・・・・・もう少し静かに来いよ」
「ハァハァハァ・・・・・・」
騒がしく陣屋に入って来たのはレムだった。走ってきたのか肩で息をしている。
「ほらこれ飲め」
「あ、ありがとうございます」
ゴクゴクッ
ひと息入れさせるためにレムに水の入ったコップを渡すと彼は一瞬で飲み干す。
「落ち着いたか?」
「は、ハイ!! 父上、実は朗報がございましてパザルジクにモンテネグロ軍30万が布陣していたようですが昨晩に全軍を引き揚げたとの事です!!」
「俺に相談せずモンテネグロとブルガリアの国境まで偵察の範囲を広げたのか・・・・・・この事を他の将兵らは知っているのか?」
「・・・・・・も、申し訳ありません。私の独断にございます。敵はこのブルガス港の守りに警戒し深入りを恐れて遠巻きに包囲していると考えました。他の将兵にこの件については内密としております」
(独断専行は許されないが・・・・・・・まあ罰するには値しないか、失敗しているわけでもないし)
「分かった。レム、諸将をここへ集めてくれ」
「御意!」
その後ーーーー
「諸将らよ。パザルジクに布陣していた敵軍が全軍撤退した為、西進への活路が開けた!! これより俺らはモンテネグロに攻め込む!!」
「敵軍? パザルジクに敵軍がいたのですか?」
「初耳だが・・・・・・・・」
「・・・・・・・!?」
諸将の前でドヤ顔のキメ顔で俺は声高らかにそう宣言する。諸将は口をあんぐりと開けて呆然としている。
「この事は伝えるべき案件だったと思っているが・・・・・・反面、伝えるべき案件では無いとも思ったのだ。まあ迷った結果、伝えなかったがな」
「ご主君、何故その事を我々に話して下さらなかったのですか!? 話して下されば我がルーマニア軍で敵軍を殲滅出来たはず!!」
「軍司令、失礼を承知で言うが弱りきった1万余りの軍で敵軍20万をどう殲滅するつもりだ?」
「そ、それは・・・・・・・・・」
「偵察の報告によれば敵はパザルジクに布陣したものの動く気配が無かったと聞く。戦う気のない輩を相手に本気でぶつかるの愚の極み。だから俺は皆に知らせず敵が撤退するのを待ったんだよ」
(実際は無駄な戦力消耗を避けるためと、この件を話せば功績欲しさに先走るバカがいるからだが・・・・・・・・我が軍は連合軍だ。統制する事が何より大切だ。不利の情報は多少なりとも遮断しないと瓦解する可能性がある)
「撤退しなかった場合、どうなさるおつもりだったんですか?」
「別ルートを通って侵攻するつもりではあった。具体的にはブルガリアを通ってモンテネグロに行くはずだったんだがな・・・・・・・」
「なるほど・・・・・・・」
(その時は何も考えていなかったな・・・・・・・・・)
ルーマニア軍司令官は俺に一礼すると席に戻る。
「諸将らよ出撃は7日後になる故、兵士らに5日の休暇を与え残りの2日間を準備期間とする。諸将らも5日は酒や娼館、博打といった娯楽を楽しむように!!」
「「「御意!!」」」
 




