第30話 帝国からの使者
機巧暦2140年2月・バルカン半島ブルガリア・ブルガス港
(兵糧、軍馬、武器、弾薬・・・・・・さらには土嚢とか建築資材まであるとは)
俺は書類に目を通していた。ソフィアでルーマニア軍を組み込んだ俺はセルビアに進路を向けセルビアを落とした。その後、ブルガリアのブルガスに進出した。ブルガスはバルカン半島において大切な経済基盤でオスマン帝国のイスタンブールやロシア=ソビエトから仕入れた食糧や雑貨などはブルガスに集まる。重要地域という事もあり周囲には外敵から身を守る為にコンクリート壁と塹壕が張り巡らされている。
(陸路より海路が盛んなのか・・・・・・・)
俺はブルガスに到着すると港や街が一望出来る高台に陣営を築きそこを本営とした。さらにルーマニアやセルビアを完全掌握するべくルーマニア軍を各地域に派遣し逃がした館林軍やその他残党の征伐にあたらせた。
「ユズキ少将! ルーマニア軍司令官がお戻りです!!」
「ここへ通せ」
陣屋に見張り兵がやって来てそう言う。
(約1週間で平定したか・・・・・・・・・早いな)
「アハハ!! 只今戻りましたご主君。これはちょっとした土産です」
ドサッ!! ゴロゴロッ・・・・・・
「ん・・・・・・うっ」
笑いながら陣屋に入ってきたルーマニア軍司令官は俺に向けて手に持っていた2つの白い布に包まれた物体を放る。
(血塗れ・・・・・・・まさか首か)
「司令官・・・・・こ、これは何か?」
「ソフィアにおいて開戦早々に逃げ出した館林、白河の首にございます。両者とも僅かな軍で私に挑んできましたが返り討ちにしてやりました。私を降伏させ、ルーマニアやセルビアに派遣された武官2人を斬った今、これでルーマニアとセルビアはご主君のモノです」
「なるほど・・・・・よくやってくれた。礼を言うぞ。それから恩賞として司令官をルーマニアの候にしてもらえるよう陛下に上奏してみよう。下がっていい」
「ご主君、ありがとうございます」
司令官は頭を下げると陣屋を出ていった。
(いつの間にか俺が主君と呼ばれるとは・・・・・・・なんか違和感あるし気持ち悪いな)
「少将、帝国より使者が来ていますが」
「帝国から?」
(何かやらかしたか・・・・・・・俺)
不安になりながらも使者に会うことにした。
そしてーーーー
「此度の戦勝おめでとうございます。帝国の属領が増える事は大変喜ばしい事にございます」
「陛下や師匠、宰相らはお変わりないか?」
「特にお変わりなく・・・・・・・・。しかしながら少し気に掛かる点がありまして」
「なんだ?」
(また何か面倒事でもあったのかな)
「宰相とノイブランデンブルク王が対立していまして、いつ戦争になるか分からない状況なのです」
「ノイブランデンブルク王とは誰の事か?」
「カーチス陸軍大将の事にございます。レーゲル宰相が進めている貴族弾圧政策に対してカーチス大将は度々、宰相に諌言していまして両者とも互いの主張を一歩も譲らずといった感じで・・・・・・・・」
(やばい・・・・・・話が全然分からねぇし。カーチスが王に・・・・・・?)
混乱に陥っている俺を尻目に使者はどうにかしてほしいと眼で訴えてくる。
「ノイブランデンブルク王・・・・・・って事はカーチスは王位に就いたのか?」
「はい。カーチス大将はポーランド国境守備と悪徳貴族を取り締まる為に軍を預けられ王に任命されました。あぁ、それからレイシア少将もハンブルク王に任命されております」
(今までは候だったのに・・・・・・・候より強力な権力を施行出来る王を置くとは、やっぱり帝国内の情勢は日々悪化しているということか)
「状況はよく分かった。それで何かしら俺に要望があるのだろう? 話してみよ」
「はい。ユズキ少将には王位に就いて欲しいのです」
使者は満面に笑みでそう言う。
(ま、マジかよ・・・・・・・・)