第15話 信用に値する人物
機巧暦2139年10月・南フランス共和国エルザス
第一師団と第二師団がモンス要塞を突破した頃、第五師団と第六師団はエルザスとロートリンゲンを突破できずに戦線は膠着していた。
「敵がいないって言うのに何で膠着状態になるんだよ!!」
「仕方ないだろ? 南フランスの連中はエルザスとロートリンゲンの国境地帯を守ることよりも内部地域を守ってるんだ。迂闊に我らが進軍しても反撃されるだけだ」
第五師団のアレクサンドル=ハリウスはイライラしていた。それに対して第六師団のナーレス=エルヴィスは慎重だった。しかし慎重すぎて南フランス軍を警戒して足踏みしていたのだ。
「ハァ~ まったく何度言わせるんだよ。偵察兵の話では南フランスは国境地帯はおろか内陸地域にも兵はいないと言っているんだ。エルヴィスは見えない敵に怯えすぎだぜ? 少しは大胆に行動したらどうだ?」
実際にこの時南フランス軍は塹壕や有刺鉄線すら置いていなかった。さらには守備兵も偵察兵も見張りも置いていないため帝国軍から見れば不気味だった。
「そう言えば第一師団と第二師団もベルギーで足止めを食らってるって聞いたな。なんでこうも上手くいかないものか・・・・・・・・・」
「僕は上手くいく方が怖いな。先に何があるかわからない」
「・・・・・・・・・お前は昔からそうだよな? 慎重すぎて後で馬鹿をみるんだ」
「どこかの猪突猛進女とは違いますよ。僕は最善を選んでるだけだ。どれだけ損害を少なくして勝つか・・・・・それをずっと考えてるんだ」
「フン! 私は所詮猪突猛進女だよ!!」
ハリウスは拗ねたように口を結んだ。ハリウスとエルヴィスは幼馴染みで性格が正反対の凸凹コンビだ。第一師団のレーゲルとカーチスの関係もそうだが幼馴染みでペアになっていた。これは参謀総長のヴィーリッヒが幼馴染みや仲の良い者同士を組ませることで作戦を円滑に進めることができると考えたものだった。
「ハリウス大将、エルヴィス大将、失礼します。今、南フランヌから使者が来ていますがお会いしますか?」
「使者だぁ? 今更降伏でもしようとしてるのか?」
「何だろう・・・・・・・降伏の使者かな。一応会ってみようかな」
「わかりました。ただいまお連れします」
将校はそう言うとテントから出ていった。しばらくすると足首まである白いロングコートに身をを包んだ少年がやってきた。腰には金色の金具がついた黒いベルトに元帥刀を吊している。
「ドイツ帝国陸軍少将の久遠柚希です。今は南フランスの使者ですが・・・・・・・・・・・」
「ん?」
「グレイゴースト《灰色の亡霊》がなんで共和国の連中に・・・・・・・・裏切ったのか?」
ガチャ
エルヴィスがそう言うとハリウスが銃口を向けた。
「ハリウス早まるな。まだ裏切ったと確定したわけではない。話を聞こう。なぜ君は共和国側の使者になっているのかな?」
「南フランヌに投降を呼びかけたのです。南フランスはかつての統一王国の王族の末裔がトップになっています。これを味方につけて分裂した共和国を再統一すれば民衆たちも反対なしで素直に従うでしょう」
「確かにな。それで結果はどうだ?」
「結果は帝国軍には降伏したくないとのこと。でも俺ら・・・・・つまり第一航空戦隊に降伏するとのことです」
「そ、そんなワガママが通じるか!!」
「確かににハリウスの言うとおりワガママだな。でも共和国は元々プロイセン=フランス戦争で侵略された側だ。この戦いはフランス側から見ればその侵略に対する復讐戦だ。帝国軍に降伏する方がおかしいと言える。それにしても君は気に入られたということか南フランスに・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・」
「兵を配置していない理由はこれで分かってたな。南フランスは安全に通れる」
「ちょっとお待ちをエルヴィス大将、南フランスを通れるのはあくまで俺ら第一航空戦隊だけです。俺ら以外の者が通れば南フランスは生かして通らせないと言っています」
「・・・・・・・・分かった。ユズキもう下がっていいぞ。後はこちらで対処する」
エルヴィスはそう言うと久遠柚希を帰した。
「どうするんだよ? これじゃ私たち何もやることがないじゃないか」
「まあな・・・・・・・・でも南フランスが味方になったのは事実だ。奴らが先遣隊として首都を落としてくれれば一番いいんだが・・・・・・・・果たしてユズキや南フランス軍がどう動くかが心配だな」
「エルヴィス。我らは南フランス軍の後方支援にあたるぞ。ユズキはあのレイシアの愛弟子。裏切ることなんてあり得ないだろ信頼はできる」
「珍しいな。ハリウスが他人を信じるなんて」
「アイツは我ら貴族の出身じゃない。貴族は保身や利益のために裏切るかもしれないがアイツは卑賤の出身だ。利益よりも情や義を重んじるはずだ」
ハリウスは久遠柚希が出ていった方を真っ直ぐ見つめていた。