第25話 自己顕示欲の塊
機巧暦2140年1月・バルカン半島・ギリシャ統監府
「榊原長官、ルーマニア統監府より報告書です」
部下から報告書を受け取ると榊原は一通り目を通す。
「なるほど・・・・・・・・ついに柚希が乗り込んできた・・・・・・か」
「えっ? ルーマニア軍を破ったと?」
「い~や、ルーマニア軍はまだ健在だ。ブルガリアに侵攻するにはバルカン山脈の西にあるセルビアしか道が無い。そこに俺は館林、白河の両准将に一個旅団《5千》を授けて警戒にあたらせていたが・・・・・・この報告書によれば柚希は東側からではなくバルカン山脈を越えてブルガリア領内に侵入したらしい・・・・・・・・・」
「裏をかかれという事ですか・・・・・・長官ならばルーマニア軍の一個師団を迎撃に向かわせるようご下命を!!」
「ハァ・・・・・・・柚希の奴、|侵略者になろうとしているのか・・・・・・・直ぐにルーマニア軍に命じろ!! 油断は禁物。敵軍を迎撃せよとな!!」
「御意!!」
その夜ーーーー
「・・・・・・・・榊原少将、まだお休みにならぬのですか?」
「うん? 姫路准将か。准将こそこんな夜更けに何だ?」
「私はギリシャ統監府守備を任せられました。敵軍がバルカン半島に侵入した今、いつ敵軍に急襲されか分かりませぬ故、安心して眠れませぬ」
「それもそうか・・・・・・・・・しかし冬の山を越えるとは重思いもしなかったな。わざわざ兵を失うような道を選び進軍してくるとは。アイツは慎重な性格だからそんな大胆な事はしないと思っていたが・・・・・・・」
「そう言えば長官とユズキは長い付き合いだと聞いておりますが?」
机の上に行儀悪く脚をかけている榊原に姫路准将がそう言う。
「学生時代につるんでただけさ」
「親しかったのに何故、敵対したのですか?」
「アイツは俺には無いモノを持ってる。それが堪らず気に食わず嫉妬した・・・・・・・・この世界に召喚されてからその気持ちが表に出るようになった・・・・・・ただそれだけだ」
「嫉妬だけで敵対するとは関心しませんな」
姫路准将は顔をしかめる。
「富、名声、女・・・・・・・アイツは召喚されてから俺の欲しい・・・・・欲しかったモノを全て持ち合わせた」
「ハァ、貴方は最終的にどうなりたいのですか?」
「この世界に召喚されたからには世界を支配する皇帝となる!! 誰にも文句の言えない、逆らえない絶対的な存在になる!! 俺が皇帝になった暁には各准将らも王にしてやる」
「・・・・・・・・・有難き幸せ」
榊原は自らの能力は無いにも関わらず、自己顕示欲の塊のような男だった。他者が称賛を浴びる事が堪らず耐えられず、自らが一番、自らが世界の中心でチヤホヤされるべき存在と自惚れていた・・・・・・・・・・