第23話 アルフレート=フォン=リリィ
機巧暦2140年1月・ドイツ帝国フランクフルト・宮殿広間
「陛下、宰相レーゲルの貴族階級に対するやり方は苛烈を極めています。このままでは反乱を起こす可能性があります。どうか陛下から宰相に諫めて下さい」
「カーチスの言う事は分かるが・・・・・・・・・悪徳貴族を粛清しなければ世は治まらぬ」
アルベルト=カーチスの訴えに皇帝アイネスはそう言う。この頃、カーチスはサリア方面の警戒や尊王攘夷派、悪徳貴族の取締を任され王になっていた。さらに親族であるアルフレート=フォン=レイシアを東海王に任命していた。
「しかし・・・・・・・・」
「カーチス、私は自分の理念に沿って政策を進めているのだ。粛清された貴族は何れも罪がある。そのような者を野放しに為れば禍根を残す。その件については何も言うな」
アイネスの隣に立っていたレーゲルがそう言う。
「・・・・・・・・この3ヶ月でどれだけの貴族が粛清されたか分かってるのか?」
「帝国には200余りの貴族・・・・・まあ名家がある。3ヶ月で取り潰した家は190余りだ。人数にして1万から2万余りが何らかの処罰を受けたと司法から聞いている」
「大臣も何人か処刑したと聞いているが?」
「ああ欧州本部と繋がっていた事が判明して泣く泣く処刑した。大臣職の空席には庶民出身の者を据えたから問題ない」
「貴族階級の者を全滅させることがアンタの理念なのか・・・・・・・・貴族は外交上で必要な存在。下手な身分を外交官にしてみろ。他国から侮られるぞ。あと粛清はほどほどにしておけよ。命狙われるぞ」
「・・・・・・・・それは分かってる」
カーチスはそう忠告すると広間から出ていった。
宮殿廊下ーーーー
「退けなくなりましたね? ノイブランデンブルク王」
「軍師か・・・・・・・何の用だ」
「アハハ、ここで話するのもあれですから私の屋敷にて話しましょうか」
「うむ」
カーチスが広間から出てくると廊下の壁にもたれ掛かっていた人物がカーチスに話しかける。貴族出身ではあるものの、名や経歴が不明な謎めいた人物であった。軍略に明るいことからカーチスから軍師と呼ばれている。
中性的な顔立ちで男なのか女なのか分からない・・・・・・・・まあ胸の膨らみやスカートを履いていることから女ではある。腰まで届く亜麻色の髪を後頭部で一つに纏めている。
その後ーーーー
「さぁ一杯やりなされ」
「うむ」
軍師はカーチスのグラスに酒を注ぐ。
「先ほど廊下で言っていた・・・・・・俺が退けなくなったとはどういう事だ? 詳しく聞きたい」
「王様は宰相様から疑念を抱かれています。軍権を持つ前はどんなに忠告や諌言を行おうとも宰相様から警戒されませんした。しかし今や貴方もノイブランデンブルクを王都とする王様となり精鋭十個師団《20万》を抱える方です。何も身分の無い昔の貴方が諌言するのと、王となった貴方が諌言するのでは大きく意味が変わってきます」
「・・・・・・・・」
「昔は宰相様も王様も互いに将帥という対等の立場でした。しかし今は帝国宰相と一諸侯の身分」
「諸侯が宰相を諫めて何が悪いんだ!? アンタが何を言いたいのかサッパリわからないんだが」
イライラしながらカーチスはそう言う
「単刀直入に申し上げれば貴方が宰相様に諌言する度に、宰相様は貴方が今の国家体制に対して不満が高まっている。いずれ十個師団をもって反乱を起こすと予感しています」
「は、反乱を!? 俺はレーゲルに対して反乱なんか起こすなんて有り得ない!!」
「貴方に反乱の意志が無くとも周りはどうでしょうか・・・・・・不平貴族は必ずや貴方を神輿に担ぎ上げましょう。事実、貴方は既に担ぎ上げられようとしています」
「な、なに!?」
「そう言えば私の名をまだ貴方はご存じありませんでしたね」
「・・・・・・・・・・・」
「私の名はリリィと申します。父はアルフレート=フォン=ヘルマンの遺児です」
「本家アルフレートは一族処刑されたはずだが?」
「フランクフルトでの混乱の最中に父は私を逃がしたんですよ。いずれ復讐のために立ち上がれと言われました」
「・・・・・・・・・」
カチャ
カーチスは腰の軍剣に手をかける。もちろんリリィを斬るためである。
「無駄ですよ。私の魅力に囚われた貴方に今の私を斬ることは出来ません」
「へっ!? か、体が動かない・・・・・・・・」
剣を抜こうにも体が全く動かない。
「魔眼は便利で良いですね。これで貴方は私の意のままです。このまま反乱を起こしてもらいますよ。不平貴族や十個師団は既に私の魅力にかかってますから貴方が抵抗しても無駄です」
「魔眼・・・・・・・魔術師だとは」
そう愉快そうに笑うリリィの金色の瞳の中には魔方陣が浮かんでいた・・・・・・・・・