第22話 バルカン山脈
機巧暦2140年1月・バルカン半島・バルカン山脈
「少将、この山を越えるんですか?」
「ああ、これを越えてブルガリアやギリシャに雪崩れ込むんだ」
目の前に広がるのは、山ァ! 山ァ! 山ァ!! 冬ということもあり山頂あたりには雪が積もっている。
「やはり西に迂回してセルビアから攻め入るのが良いと思うけど・・・・・・・・・」
「いや既にセルビアには敵が展開してる噂がある。わざわざガチガチに固めた敵軍に正面からぶつかる事もないだろ」
「山を越えた頃にはどれだけの兵が残るか・・・・・・雪山なので滑落もありますし」
オーストリア軍の第3軍司令官と魔導航空戦隊副将及び第2航空戦隊司令官・グレイス=シェフィールドは難色を示す。
「緩やかな場所を選んで進軍するつもりだから安心してくれ・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
山を崩して谷を埋め道をつくり、橋を架けて川を渡り、穴を空け道をつくるといった三国時代末期の魏将・鄧艾の蜀漢征伐のような進軍になりそうだ。
その後ーーーー
「な、雪崩だぁァァァァァ!!」
「トラックが・・・・・・・・・」
「補給部隊を先に行かせろ!! 歩兵はその後に!!」
「少将!! 迂回しましょう。この先に拓けた場所があると聞きますから」
やはり当たり前だが冬の山越えは困難を極めた。滑落する者、雪崩に巻き込まれる者、遭難する者が後を絶たなかった。
そしてーーーー
「少将・・・・・・・だ、脱落していいですか?」
「・・・・・・・・・・」
「少将、限界です。寒さで頭が・・・・・おかしくなりそうなんです」
「誇り高き我が帝国魔導航空戦隊がこのザマでどうする!!」
グレイスが寒さに堪りかねて弱音を吐く。
「し、しかし少将、気合ではどうにもならない・・・・・・・」
「・・・・・・・・・ならこれを使え」
「これは?」
「今に分かる」
俺は懐から紅いブローチを取り出すと魔力を流す。
「へ? か、体がポカポカする」
「さ、寒くない・・・・・・」
「・・・・・・・っ!?」
グレイスの後にいる兵士らも口々にそう呟く。
「これは魔力を熱に変換して伝えるモノだ。俺自身が寒がりだから買ったんだ・・・・・・・」
「なるほど・・・・・・でも自身にしか熱は伝わらないはずでは?」
「魔力によって伝えられる範囲が変わる代物らしくてな。強力な魔力であるほど広範囲に伝えられるわけ。対人用で人間を内側から暖めるモノだから・・・・・・雪が熱によって溶けるなんて事はないから心配するな」
「なるほど」
いわゆる自軍バフかけという奴だ。俺がいる範囲内に魔力変換された熱が常に発されているのだ。
「さぁ、先を急ぐぞ」
「分かりました」
俺たちは再び行軍を開始した。




