第21話 暴走への懸念
機巧暦2140年1月・ドイツ帝国・フランクフルト・宰相府
「・・・・・・・・」
「アルフレート少将からの書簡ですか?」
「ああ・・・・・ユズキがオーストリア軍を完全に味方にしたみたいだ。本人は自覚ないらしいがアイツは天然の人たらしだ。ユズキと関わっていると芳醇な酒に酔っているような感覚になっていつの間にかアイツに惚れてるんだ・・・・・・・・・」
「やはり見た目ですかね?」
新宰相・アーチゾルテ=レーゲルは宰相府執務室の椅子にだらしなく座っていた。隣には秘書が控えている。
「まあそれもあるな・・・・・・・・アレはどう見ても女の子にしか見えないしな。それより見た目より中身が強烈なんだよな・・・・・・・」
「中身? かなりサッパリしてそうですけど」
「外面は他人なんて興味ありませんよって感じなんだが・・・・・実は面倒くさいくらいの熱血漢だ。意地でも自らが信じた仲間や信じた未来・信念を貫く奴だ。壁が薄かろうが厚かろうが自らの信念で全てぶち壊す」
「・・・・・・・・・・」
「本当は弱くて砕けそうな性格なのにな」
レーゲルはそう言うと溜め息をつく。
「・・・・・・アルフレート少将は自らの性格を偽っていると?」
「偽っている・・・・・・・・だろうな」
「魔術師としてどうなんですかね? 魔力は性格や体調によって大きく左右されますからアルフレート少将が性格や感情を偽って本来の性格を押し込めているとすれば・・・・・・・」
「それ以上は言うな」
秘書官が魔術の話を持ち掛けるとレーゲルは首を振り拒絶した。
「分かりました・・・・・・・・・」
「いつかする魔術乖離すると言いたいのだろう?」
「はい・・・・・・・」
感情が魔術に飲まれ自らの意思とは関係なく魔力が尽きるまで暴走することを魔術乖離という。意識と魔術、感情が乖離することから魔術乖離と呼ばれている・・・・・・・・魔術協会の洗礼を受けた魔術師は感情がぶれても魔力をコントロール出来るシステムが埋め込まれるため魔術乖離の心配はない。しかし野良で洗礼無しに魔術師になった者にはコントロール出来るシステムが組み込まれていない・・・・・・・・・・・
「魔術乖離すれば止められるのは魔術協会の人間のみだ・・・・・・その場合、死という形で暴走が止まるわけだ・・・・・・・・・・」
「魔弾による始末・・・・・・ですよね」
「ユズキが今回の出征した理由は分かるか?」
レーゲルの言葉に秘書官は首を横に振る。
「大義名分は仲間の敵討ちという私怨丸出しなもの。資金はレイシアのアルフレート家が受け持つと聞いていてな・・・・・・私怨丸出しではいつ魔術乖離が起こっても可笑しくないわけだよ」
「私怨丸出しの敵討ち・・・・・・それって許される事なんですか?」
「許されないだろうな。レイシアからは事後報告だったからな。一応、新聞社やラジオ局には勢力拡大を図る大日本帝国・欧州本部に対する牽制の意味合いで出兵を命じたと話した」
「・・・・・・・・・・でも今朝のラジオ報道や新聞記事には宰相府が独断で戦争を始めたと報じてありましたよ」
「仕方がないな・・・・・・マスコミの連中は上流階級の者がほとんどだ。上流階級の貴族を弾圧する私はマスコミにとって敵だ。さらに欧州本部と繋がりがある貴族もいるし尊王攘夷派もな・・・・・・・・・・・富裕層は皆、私の敵であり奴らも私のことを敵と認識してるわけだ」
「・・・・・・・・・・・」
自虐的な笑みを浮かべるレーゲルを秘書官は心配そうに見つめる。財政再建や税制改正、貴族階級見直しなどの帝政改革を行うにはマスコミや尊王攘夷派といった欧州本部から金を貰って活動している極左翼との戦いでもあった・・・・・・・・・