第14話 秘密同盟と要塞陥落
機巧暦2139年10月・ベルギー王国
会談の場所は戦場の後方に建てられた小屋だった。もっと後方にいけば市街地があるがレーゲルとカーチスは自軍が心配ということで出来るだけ戦場に近い場所が選ばれた。
「こんなボロボロな場所で申し訳ありません・・・・・・・」
「いえ、お気になさらず。豪華な場所で会談してもかえって話が頭に入らない。こうゆう場所のが落ち着いて話ができますから・・・・・では改めて自己紹介でもどうですか?」
「そうだな。俺はドイツ帝国陸軍大将・アーチゾルテ=レーゲルだ。後ろにいるのは陸軍大将・アルベルト=カーチス」
「私は大日本帝国海軍中将・新田義明と申します。大使兼駐在武官という立ち位置です。以後お見知りおきを」
新田義明はそう言うと頭を下げた。
「ああ こちらこそ・・・・・・」
「そういえば、先程から砲撃の音がしませんでしたか?」
「ああ 断続的にしていたが・・・・・・・」
「モンスの要塞は陸からでは攻略不可能、海岸線から艦砲射撃してから陸戦隊を上陸させれば簡単に落ちますよ」
「それじゃ、艦砲射撃しているのは艦隊は貴方の海軍か?」
カーチスがそう言うと新田義明は頷く。
「戦艦1隻、重巡2隻、軽巡4隻、駆逐6隻が座礁ギリギリの場所にて艦砲射撃を行っていますと言いたい所ですが何しろモンスは内陸部ですから・・・・・・・・・・砲弾がギリギリなんでね。まあ実際に砲撃しているのは輸送艦から引き揚げた砲兵部隊です。夜間に密かにコルトレイクまで進出させました。今はコルトレイクからアールストの南部まで進撃致しました。貴方らが聞いた砲撃音はアールスト南部にいる海軍陸戦隊が放ったものです」
「中将、一つ聞いてもいいか?」
「なんです?」
「なぜ敵対する我らを援助する? 大日本帝国はイギリスと軍事同盟を結んでいるはず、イギリスは反ドイツ勢力の中心国家だ。大日本帝国の貴方が我らに手を貸したとなればイギリスはどう思われるか・・・・・・・・・」
「たしかにイギリスと同盟は組んでいますし、本国はドイツ皇帝から散々な嫌がらせを受けて今や立派な反ドイツ勢力の一員となっています」
「なら尚更今の貴方の行動はマズいのでは? もしかしたら本国に帰れなくなるぞ?」
レーゲルがそう言うと新田義明はケラケラと笑った。しかしその笑みは自虐を込めた笑いだった。
「アハハ、今は縁あって海軍中将ですが・・・・・・・私は元々幕臣の身でね。当時幕府の将軍に尽くしたのですが残念ながら今の朝廷に幕府が滅ぼされてからは朝廷に仕えています・・・・・・・・・・・」
「なるほど、朝廷からはいつ裏切るかわからないから重用されていないということか・・・・・・でも官職にはつけないと後々に面倒くさいことになるから一応海軍中将に任命したというわけか」
「よく分かっていらっしゃる。さらに大使館の大使兼駐在武官にすることで私をわざと遠方へと追いやったわけですよ。まあ、そんな経由で私は大日本帝国の本国とは別行動をとっています。当然ながら本国から警戒されて果てには暗殺予告までされていますが・・・・・・・・・・」
「別行動とは? 具体的には? 貴方の目的や信念は?」
カーチスが問い詰める。カーチスとしては味方になるからにはあっちにフラフラ、こっちにフラフラされると困るから全てを吐かせる方針らしい。
「カーチス大将、逆に質問しますが貴方の信念、目標は何ですか?」
「・・・・・・・・現状維持。願わくば連邦、共和国、連合王国を併合して帝国が中心の世界をつくる。そうすれば世界は必ず平和になる。だからこの戦争にも反対はしなかった。まあ作戦はお粗末すぎるが・・・・・・・・」
「レーゲル大将はいかがで?」
「俺もカーチスと同じ考えだ。国境があるから人は争うんだ。だから国境を無くして一つにしてしまえば平和になると思う」
カーチスとレーゲルは純粋な瞳でそう言うと新田義明は全てを悟ったかのようにこう言う。
「失礼なことを言いますが、君たちが言う平和は実現不可能です。そもそも平和とは次の戦争のための準備期間でしかないのです。この世界で平和は望めませんよ。勢力が均衡している間は平和ですけど・・・・・・・・・・・世界規模の平和が望めないならば、個人の平和・保身を優先しようと私は考えたのです。ただひたすら自分の幸せと資金をつくること、同じ仲間を増やすことだけを考えて今まで行動してきました。おかげで賛同者も増えましたし、資金にも困ることはありません」
「個人の平和を願って大勢の平和はどうでもいいとでもということか?」
「そうです。人種や宗教を超えて平和を築こうなんてそもそも無謀な話です」
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・」
新田義明の話にレーゲルとカーチスは眉をひそめた。
「帝国と言う概念と、力で解決しようとすることが既に時代遅れなのです。植民地支配も同じです。我々は奪い殺すことから、救い育てる、そして未来へと繋げなければならないのつどす。私はそんな《救済》を目指しているんです」
「・・・・・・・理解できないが、信念は伝わってきた・・・・・・・」
「ああ。中将はこれからどうするおつもりで?」
「しばらくは帝国側に味方します。帝国陸軍は機動力にも優れ、魔導軍も一流。ああ、それから久遠柚希という方をご存じですか?」
「ユズキ? ああグレイゴースト《灰色の亡霊》か・・・・・・知っているが、それがどうした?」
「その柚希という少年を私に預けてくれませんか?」
レーゲルは首を傾げた。
「なぜ、貴方に預ける必要が? あとユズキは俺らの管轄ではない。レイシアという人物が事実上の保護者になってる」
「私の手で育てたいのです。立派な人物にね」
「その件については安心しろ。レイシアは人格者だ。ユズキは孤児だった。レイシアという抱擁力ある人物が必要なんだ。戦場にたっているから尚更、精神的な損耗は激しい。今、レイシアからユズキを切り離すことできない。だろ、カーチス?」
「レーゲルの言うとおり、ユズキは我ら堕落したドイツ勢力の中で一番の希望の星です。さらに今、指揮官のユズキを失えば第一航空戦隊の士気が墜ちます」
「わかりました。であれば我が大日本帝国・欧州本部はドイツ帝国と同盟いたします。一緒に戦い抜きましょう」
「わかりました。我ら帝国軍は貴方と同盟を結びます。共に戦い抜きましょう」
こうしてドイツ帝国と大日本帝国・欧州本部との間に無期限の共同戦線が出来上がった。その後艦砲射撃や水上機による爆弾投下によってズタボロになったベルギー王国・モンス要塞は大日本帝国所属の海軍陸戦隊の上陸により海側の要塞群を奪われた。さらに好機とみた帝国軍により陸側から総攻撃を受けて陥落した。大日本帝国海軍が到着してからわずか2日後のことだった。