第10話 目標設定
機巧暦2140年1月・ドイツ帝国フランクフルト・宮殿広間
「申し訳ありません。侵入者を取り逃がしました」
「いや気にすることはない。それより・・・・・・・・」
「俺は大丈夫です。いつか仲間の1人や2人失う覚悟は出来ていましたから・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・大丈夫なものか。目がうつろだ」
康介と新田が去った後、俺は広間の扉を開けアイネスに報告した。アイネスは心配そうにそう言う。となりに居る宰相レーゲルも心配そうに見つめてくる。
「いえご心配なく・・・・・・・・それよりも相互不可侵条約締結の交渉を口実にして我が帝国の軍人を殺ったことは大日本帝国・欧州本部からドイツ帝国に対する宣戦布告と捉えて良いと思います。ですが今は財政、軍、民が苦しい状況にあります・・・・・・・・・」
「冷静さを装っているつもりだろうが・・・・・・・ハァ、今日は休め」
「皇叔・・・・・・・泣きたいときは泣くといい」
顔がリムの血で血塗れになっていて表情が読み取れないと思っていたが涙ぐんでいるのがバレていた・・・・・・・・・
「うぅ・・・・・・・・し、失礼」
ーーーー広間前廊下
「ふぅ~」
「仇・・・・・討ちたいかね?」
「師匠・・・・・・いや俺は帝国の皇族だ。一介の下級軍人ならまだしも・・・・・・・今は勝手な行動はできないだろ」
「もし軍勢も資金も援助するから仇討ちを許可すると言ったどうかね?」
「・・・・・・・・」
くっそ足元見やがって・・・・・・
広間から出るとレイシアが壁にもたれ掛かっていた。
「援助してやるから討ち果たしてこい。欧州本部とは遅かれ早かれ戦う運命だ。やるなら早い方がいい」
「アルフレート家が代々貯めていた資金を?」
俺が戸惑いつつそう言うとレイシアは頷く。
「な、なぜそこまで俺に・・・・・・・・」
「別に君のためじゃないさ。帝国のためだ。リムがやられたとあれば魔導航空戦隊の連中はどうなるか? お世辞にも素性は良くないならず者の集団だ。君もそうだが仲間や絆を何より大切にする。仲間殺されたとあらば君が止めても暴走するだろうよ」
「暴走する前に陛下から出征の許可を得るということか」
「そうだ。まあ私の許可は陛下の許可と同様の効力を持つ。早々に一個師団《2万》軍勢を出せ」
「一個師団で欧州本部を攻略は・・・・・・・・」
「オーストリアの兵も集めれば二個師団《4万》にもなるだろ?」
「分かった」
その後ーーーー
「親父! リムがやられたってマジか!?」
「ああ・・・・・・・」
「ユズキ少将!! すぐに兵を出し仇をとりましょう!! 大西桜に乗り込みリムを殺した輩を殺しましょう!!」
「「「ユズキ少将!!」」」
「あぁ・・・・・・・・」
レイシアの予想通り魔導航空戦隊の仲間らは全員が仇討ちを主張した。慎重なグレイスでさえ仇討ちを主張しているため俺が止めたとしても無駄であった・・・・・・・・・
「少将、作戦はどうするつもりなんだ?」
「むぅ・・・・・・・・・」
新田のマルタ島に乗り込むか・・・・・・・それとも康介のいるバルカン半島のギリシャに乗り込むか・・・・・どうしよう
「少将、マルタ島を攻めるなら海軍の協力は必須になります。ですが残念ながら海軍には上陸用艦艇はもちろん護衛の艦も足りてない状況で・・・・・・・・・・」
「海路からの侵攻は絶望的か・・・・・・ならば陸路はどうだ?」
「親父、陸路の方が難しいと思うが?」
地図を見ていたラムがそう呟く。
「な、何でだ?」
「ギリシャ攻めるとなるとバルカン山脈とディナルアルプス山脈の中央にあるセルビアを落として侵攻することになる。」
敵の意表を突くとしても山を越えるにしても今の時期は真冬だ。雪の中の行軍は自殺行為になる・・・・・・春あたりまで待つにしても欧州本部側の侵攻を許してしまうかもしれない。
ならば答えはただ一つ・・・・・・・・・・
「バルカン山脈を越えてギリシャに侵攻するぞ」
「え!?」
「し、正気かよ・・・・・・冬の山越えは自殺行為に等しいんだぞ!?」
「帝国領内に侵攻される前に我らは敵地に侵攻しなければならない!! この戦いはスピード勝負だと思え」
「は、はい」
バルカン山脈からギリシャ内に攻め込むとなれば本国からの物資輸送は困難となる。そのため不本意だが略奪により物資補給を行う事が決定した。
「ではこれで作戦を遂行すると?」
「ああ、厳しい戦いなろうが・・・・・・・仇討ちのためだ」
目標はギリシャにある統監府、そして統監府長・榊原康介を討つことが最終目標となった・・・・・・・・・・・