第13話 ベルギー侵攻開始
機巧暦2139年10月・ベルギー王国モンス
久遠柚希が南フランヌとの秘密同盟の締結に成功した頃、ドイツ帝国は隣国のベルギー王国に第一師団《2万》と第二師団《2万》を差し向け侵攻を開始した。さらに予定通りエルザス《E地域》に第五師団《2万》とロートリゲン《L地域》に第六師団を配置した。
編成は以下の通りとなった。
第一師団《2万》:アーチゾルテ=レーゲル陸軍大将
第二師団《2万》:アルベルト=カーチス陸軍大将
第三師団《2万》:予備軍のため指揮官なし
第四師団《2万》:予備軍のため指揮官なし
第五師団《2万》:アレクサンドル=ハリウス陸軍大将
第六師団《2万》:ナーレス=エルヴィス陸軍大将
第三師団《2万》と第四師団《2万》は予備軍で特定の指揮官もいないのだ。
「まさか足止めを食らうとは・・・・・・」
「レーゲル大将、ベルギー王国は道を貸してくれる予定じゃなかったのか?」
「参謀総長は何を根拠にベルギーが道を譲るなどと言ったのだ・・・・・・・!!」
テント内で第一師団長のアーチゾルテ=レーゲル大将が頭を抱えていた。第二師団長のアルベルト=カーチス大将も今の状況に対して半ばイラついた様子だ。
侵攻したドイツ帝国陸軍はベルギー王国が道を譲ると聞いていた為楽観的になっていた。しかしいざベルギーに入り北フランスとベルギーのモンスという地域で足止めを食らった。モンスには要塞が築かれていて北フランス軍とベルギー軍が守りを固めていた。
「カーチス大将、第二師団だけでも要塞を迂回することは出来ないのか?」
「そうしたいのは山々なんだが・・・・・・」
アルベルト=カーチスは机の上に広げられた地図を見た。
「無理だな。要塞を囲む塹壕と有刺鉄線が沿岸部にまで延びてる。北フランス方面の森から迂回しようとしても森には多数の砲台が築かれてるから歩兵部隊では突破は不可能だ」
「機甲師団か魔導師団がいてくれればよかったが・・・・・・・・」
「今更、嘆いても仕方が無いだろ? 今は出来ることをやるしかない」
帝国軍は打つ手が無く完全に膠着状態になってしまったのだ。当然膠着状態になれぱ不利になるのは帝国側だ。背後の補給線を破壊されれば戦争どころではなくなる。さらに北フランスが侵攻してくる可能性もあった。
その中意外な連中が帝国に助太刀した。それはモンス要塞包囲から3週間が経ったときだった。この頃になると案の定ベルギー軍のゲリラにより補給線がズタボロになっていた。
「・・・・・・・・カーチス大将、入るぞ」
「ああ、レーゲル大将か・・・・・どうした?」
「一度軍勢を退いたほうがいいかもしれないな。このままいけば全員が飢え死にする」
「疲れ果てたライオンは帰り道にハイエナに狩られたそうだ・・・・・だから我らは意地でも撤退はできないんだ」
「訳がわからないぞ。どういう意味だ?」
「今の帝国軍は弱ったライオンそのものだ。撤退すればベルギー軍のゲリラにやられるだろうな」
「それじゃ、どうするんだよ!! ここで諦めるのかよ!?」
カーチスはイライラするとレーゲルの襟元を掴んで激しく揺さぶった。それに対してレーゲルはただ真っ直ぐカーチスを見つめていた。
「クッソ!! 昔からお前はいつもそうだよ。口では諦めたように言う癖にその瞳は諦めてねぇ!!」
「さすがだな カーチスは俺のことを良くわかってるな」
「そ、それは幼馴染みとして当たり前だろ」
実はカーチスとレーゲルは幼馴染みでカーチスがレーゲルを陸軍に誘ったのだ。その後2人は二人三脚で助け合いながら出世し今の地位にいるのだ。
「・・・・・・ん?」
「な、なんだ? 今、爆発音がしなかったか?」
「ああ」
戦場だから爆発音がしても可笑しくない。しかし爆発音はにする。
「レーゲル大将!! 大変です!」
「?」
「なんだ?」
二人の間に割って入ってきたのは慌てた様子の偵察兵だった。
「先程から続いている爆発音は沿岸部に停泊している艦隊によるものだと偵察した結果正体が分かりました」
「ベルギーの沿岸部に艦隊は配置していないはずだぞ」
「海軍が独断でやっているんだろ?」
「・・・・・・偵察兵よ旗は見てきたか?」
「はい。旗には白地で中心に鳥が描かれていて鳥の周りにはピンク色の花弁が弧を描くようなデザインでした。かなりキレイでした」
「帝国軍の旗は陸軍も海軍も黒地に白鷲なんだが・・・・・・・・レーゲルどこの所属の海軍かわかるか?」
カーチスは分からないと見るとレーゲルを頼った。
「・・・・・・・分からないな」
「レーゲル大将、カーチス大将、お話しのところ申し訳ありません」
さらにまた今度は偵察兵ではなく将校クラスの人物がやってきた。
「どうした? 忙しいから早く済ませてくれ」
「はい、お二方にお会いしたいと客人が訪ねてきまして・・・・・・どうしますか?」
「名前はなんて言ってた?」
「ヨシアキ=ニッタと名乗ってました」
「帝国にはいない名前だな。聞いたことがない・・・・・・レーゲル会ってみるか?」
「そうだな。ここで断れば相手に不快な思いをさせるかもしれないしな」
こうしてレーゲルとカーチスは客人と会うことになった。