第6話 東を目指す
機巧暦2140年1月・イタリア王国マルタ島海軍鎮守府・執務室
「ぐぬぬ・・・・・・・榊原の奴」
「如何致しました?」
「ハァ・・・・これを見よ。今朝、ギリシャから送られてきた書状だ」
新田は北畠に書状を渡す。
「なるほど・・・・・・一理ありますね」
「一理あるだと? 我らは勢力拡大し続けなければならない状態なのだぞ。勢力拡大を止めればいづれ滅ぼされる。榊原はそれを分かってて言っているのか」
榊原が新田に対して送った書状には連戦で兵はおろか、民草まで疲れ果てている。さらに自領の統治が落ち着かない内にまた新たな占領地が増えるため政策が追いつかないし、警察や役人は不眠不休の状況にある。いくらか戦を止め内政に集中したらどうかと書かれていた。
「ハンガリーから一歩も動かない理由はそういう事だったのか・・・・・・・・・・どう判断されます新田中将?」
「大覚寺元帥は何と言ってる?」
「大覚寺様は一度停戦し内政に力を入れるべきと話していました。オーストリア軍はハンガリー軍と違い精鋭部隊が揃っています。榊原軍だけでオーストリア平定は厳しいかと思います」
「オーストリア軍とハンガリー軍の違いは何だ?」
新田は少しイライラしながら酒を注ぐと一気飲みする。
「貴族だけで編成されたハンガリー軍は国の為より自らの保身を第一としているため榊原軍が侵攻してくると抵抗無しに降伏致しました。しかしオーストリア軍は農民や市民で編成された非正規軍・・・・・・・・国の未来を憂う有志が集っています」
「なるほど・・・・・・・それは降伏させるのは難しいな」
「私たちがロシア=ソビエトを攻めていた時にどさくさに紛れてセルビアに侵攻してきたのがオーストリア軍だそうで・・・・・・それから・・・・・・これは榊原が側近に対して話していた事ですが・・・・・・・・・・」
「?」
「オーストリアを攻略したとしても、その先のドイツは如何するのかと・・・・・・・・ドイツは弱小国に成り下がり、我が欧州本部が全軍をもって攻めれば攻略できましょう。しかし窮鼠となり噛みついて我らが敗北したらどうなるかと」
「・・・・・・・・・・慎重だな榊原は、我が軍に敗北という二文字はないというのに」
「恐れ入りながら榊原の考え方は前線指揮官としては当然の考えかと思いますが」
北畠の言葉に新田は苦笑する。
「少しばかりかオーストリアは放っておくか・・・・・・本格的に東方計画を進めるとするか」
「既に清王朝の遺臣をオスマン帝国の東方に配備してあります。大覚寺様や新田中将のお許しがあればアフガニスタンから新疆を攻め取り支那に雪崩れ込めます」
「うむ。」




