第4話 桜の華
機巧暦2140年1月・ドイツ帝国バルカン半島ギリシャ・アテネ
「榊原長官、ハンガリー軍からの報告です。オーストリア軍が国境侵犯を繰り返しているとのことです」
「侵犯されても反撃には出るなと伝えろ」
「御意」
榊原康介は秘書にそう言う。ロシア=ソビエト戦役、オーストリア=ハンガリー戦役の結果、榊原はルーマニア、セルビア、モンテネグロ、ギリシャ、ブルガリア、ハンガリーの指揮監督を任されていた。
「ふぅ・・・・・・終わった」
「お疲れ様です」
「桜華・・・・・・・いつの間に居たんだ?」
「秘書が出ていった後に入りましたわ」
「そ、そうか。魔力は大丈夫か?」
「ご主人様のお陰で大丈夫ですわ」
榊原はイタリアの魔術協会で洗礼を受け晴れて剣系の魔術師となっていた。その後、ロシア=ソビエト戦役のために大日本帝国・欧州本部はイギリス連合王国と同盟を結んだ。桜華はその際に連合王国から譲り受けた禁忌人形だった。
腰辺りまであるピンク色の髪に榊原と同じ紅色の瞳。服装は海軍軍服を改造したモノで上着は軍服だが下は膝まである白いロングスカートを履いている。さらに腰には主力武装となる戦斧が折りたたまれた状態で差している。
お嬢様系な性格な彼女は主人である榊原にベッタリと懐いていた。榊原も彼女にベッタリで常に傍に置いていた。
「ハンガリーはどれ程持ち堪えられるか・・・・・・・」
「ハンガリー軍になぜ反撃を許可しないのです? ハンガリーが墜ちればご主人様は新田様や大覚寺様より叱責されますのに・・・・・・・・・」
「オーストリアの後ろにドイツ帝国がある。このままオーストリアを潰すのは容易いが、ドイツ帝国と欧州本部の間に緩衝地域が無くなるのはマズいと考えてるんだ。ドイツ帝国をこれ以上追い詰めれれば帝国は窮鼠となり猫である欧州本部は思わぬ大損害を被るかもしれない・・・・・・」
「慎重ですわね。私という傑作兵器がありながら・・・・・・・」
「兵器か・・・・・・・桜華は兵器なんかじゃない普通の何処にでもいる女の子だ。死なせたくないだから、戦いは出来るだけ避けなければならないのだ」
榊原は桜華の肩を掴むと耳元で優しくそう呟く。
「この身が壊れようともご主人様に尽くすのが機械人形の務めですわ」
「・・・・・・・・・・そ、その時は頼む」
「えぇ、きっとご主人様の期待通りに働いて見せますわ」
榊原は最初こそ桜華を兵器として見ていたが、ロシア=ソビエト戦役や日常を共にしていくに連れて兵器としてではなく普通の女の子として見ていた・・・・・・・・・だがその一方で柚希を屠れるならと榊原は覚悟を決めてた。




