第23話 真実と処刑
機巧暦2140年1月・ドイツ帝国フランクフルト・南軍府
「久しぶりだなヘルマン」
「貴様・・・・・・・・」
ヘルマンは近衛兵に引き摺られるようにしてレイシアのいる南軍府に連行された。
「この後、君は処刑される訳だが最期に何かあるかね? 言い訳なり罵詈雑言なり・・・・・・」
「これからどうするつもりだ? 諸侯は離反し帝政は行き詰まり、さらには民心まで離れている・・・・・・貴様ら自称忠臣が足掻いたところで帝国の運命は変わらない」
「だから何だ? 我々は信じた道を歩むつもりだ。私は正義という言葉は嫌いだが、敢えて言うならば正義という茨の道を進むつもりだ。賢臣、忠臣あればどんな苦難をも乗り越えられるはず」
「理想主義者め・・・・・・・・」
「死ぬ前に一つ聞きたい。何故、宰相を殺した? 欲のためか? それとも保身のためか?」
レイシアの言葉にヘルマンは苦笑した。
「国を護るためだ。宰相は有能で潔癖だった・・・・・・国を護るためには手段を選ばずといったところか・・・・・・・奴はフランスやオーストリア=ハンガリー、ロシア=ソビエトやイタリアの連中を帝国内に引き込みやがった」
「・・・・・・・・・・・」
「ドイツ=フランス戦争やドイツ=イギリス戦争によって大幅減少した人口を他国の人間をひいきいれることでカバーしようとしていた。それが愚策だった。帝国の治安はみるみる悪化していった。私はその事を再三宰相に対して意見してきたが宰相は対策を講じるどころかさらに他国人をいれ悪化させた・・・・・・・」
「そんな話は初耳だが・・・・・・・」
「信じるか信じないかは貴様次第だ。まあ何がともあれ先帝が崩御された後、治安は完全崩壊し街や村は自警団を組織して警備にあたる一方、自警団同士でも抗争が起きた・・・・・・当然、こんな世になれば決まって出てくるのは変な思想に感化された奴らだ」
「・・・・・・・・」
「東洋の思想で帝を尊び夷狄を一掃する尊皇攘夷という奴だ・・・・・・・至極真っ当な考え方だがやっていることは他国人の暗殺や攘夷反対派の粛清だ。こんな連中はテロリストと何ら変わりもない」
「東洋の思想が何故、我が国で広まるのだ・・・・・・・?」
レイシアは首を傾げる。
「・・・・・・私はそこまでは知らない。ただ私はその事に危機感を抱いて宰相を殺しただけ・・・・・・帝都を臣民もろとも燃やしたのはベルリンに居座る尊皇攘夷派を殺すためだ。食糧難というのは口実に過ぎぬ。さぁ殺せ。語るべきことは全て話した。勝者はお前だレイシア」
「うむ。では・・・・・・・謀反の罪を犯したアルフレート=フォン=ヘルマンを斬首刑に致す。これは陛下自らの書状である!! 近衛兵! コイツを刑場まで連れ行くがいい」
「分かりました」
ヘルマンは近衛兵により刑場に連れていかれると妻子もろと斬首された。
その後ーーーー
「刑を執行しました」
「うむ・・・・・・・遺体を城外の門に掛けろ」
「な、何のために?」
「諸侯連合軍が攻めてきたらひとたまりも無いからな。ヘルマンの遺体を見れば攻めないだろうよ」
「分かりました」
レイシアに命じられた南軍の兵はヘルマンの遺体を城外に晒した。