第12話 対等な同盟
機巧暦2139年10月・南フランス共和国首都リヨン
俺の目の前にアホずらした王女と初老の男性がいた。さっきまでの凛々しい表情はどこへやら・・・・・・・
ドイツ帝国から鉄道を乗り継ぐこと4回、南フランヌの首都リヨンへ到着した。現地人に王宮の場所を聞きながらようやく辿り着いたのだ。
服装は黒い膝丈のロングコート、そして護身用の元帥刀、右胸には少将の位を意味する鷲のバッチを身に着けていた。一応、帝国を出発する前に参謀総長から呼び出され正式に特例の昇級で陸軍少将に任命されたのだ。
そして王宮の前に辿り着いたものの・・・・・・・・・
「何の用だ?」
「帝国の使者なんだが、王に会わせてくれないか?」
「帝国から・・・・・・・・だと? その証拠はあるのか?」
使者は事前にアポをとるのが常識だったため案の定、王宮の門の前で宮廷武官であろう連中に止められた。
・・・・・いやコイツら、なんか違う。
俺の本能が危険を察知する。
「貴様ら宮廷武官じゃねぇな? その胸の勲章を見る限り北フランスの者だろ? 南フランスの勲章は金剣が刻まれたやつだと聞いているぜ?」
「な!?」
「くっ!!」
宮廷武官が青ざめる。コイツらの胸の勲章は金盾が刻まれている。金盾が刻まれた勲章は北フランスの功労者を意味する。
「爪が甘かったな? 南フランスに内偵でもしに来ていたのか? それとも・・・・・指導者の暗殺が目的かな?」
「調子に乗るんじゃねぇよ!! 帝国の犬がよ!!」
「ハァ 帝国の犬かぁ・・・・・・残念だが貴様らの相手をしている暇なんか無いんだが? そこを通せよ」
「アハハ 通せよって言われて通すバカがどこにいるんだよ!!」
話している間に6人くらいに囲まれた。連中のその手には銃やら剣が握られている。
なるほど本気で俺を殺しに来るつもりか。それにしても王宮の警備がガバガバすぎるな。敵が簡単に宮廷の門番になれるなんてな・・・・・・・でも内通者が普通にいるとは南フランス側の対応も随分と杜撰だな。
「わかった! 相手してやらぁ!! でも死んでも文句は言うなよ!!!」
「フン! オラッ!!」
「くたばれ!!」
「帝国の犬がぁぁぁぁぁ!!」
「甘いな」
・・・・・・・・動きが雑すぎる!! こんなんでよく軍人なんかやってるな~
一斉に武器を振り上げて襲い掛かってくるが連携がとれていないため隙だらけだ。1人を背負い投げし地面に叩きつけると俺はわずかな隙間を見つけすり抜けた後、リーダーと思しき男の背後に回る。
「王手だ!!」
「なぁ!?」
「リーダーが!! くっそ!」
背後にまわると腰から護身用の拳銃を引き抜くと連中のリーダーの腕を捻りあげ後頭部に突き付けた。
「抵抗するならこのまま撃ち殺す。降参するなら助けてやる。さぁどうする?」
「貴様!! 何者なんだよ。殺気が尋常じゃねぇな」
「ハァ!? お前らが言ったとおり俺は帝国の犬だ。まあ犬は犬でも手の付けられない猛犬だけどな。アハハッ!!」
「降参だ!! お前ら撤収するぞ!!」
「おう」
6人はドタバタと逃げていった。そしてその後騒ぎを聞きつけた本物の宮廷武官がやって来た。
「何事だ!!」
「君、大丈夫か? 絡まれていたようだけど」
「見ての通り大丈夫ですよ」
「陰から見ていたが・・・・・君、帝国の使者なんだって?」
いや見てたのならさっさと助けろよ・・・・・・無駄な体力使っちまったじゃねぇか。
「ああ だから指導者に会わせてくれないか?」
「ああ わかった」
意外とすんなりと了承してくれた。こうしてドタバタとしながらも指導者・・・・まあ王女に謁見可能となり今に至る。
「まさか・・・・グレイゴースト《灰色の亡霊》が貴公のことだとは・・・・」
「門前で敵の内通者6人を返り討ちしたというのは本当かしら?」
「たまたま運が良かっただけです」
「強運と頑固さが其方の最強の取り柄ということかしら?」
「・・・・・・・」
初対面にも関わらず性格を見つかれるとは・・・・・・・なぜわかったんだ。
「ああ~ そうそう申し遅れたわ。私はシャルロット=アルチュセールよ。隣にいるのはアンリ=フランソワ。ユズキ=クオン、以後お見知りおきを・・・・・・それで要件は何かしら?」
「単刀直入に申し上げますが、ドイツ帝国は南フランス共和国と同盟を結びたい」
「・・・・・・・・・それは共和国と帝国との今までの関係を知ってのことかしら?」
「姫様・・・・・・・・・・」
「もちろん知っています。知っててこの話を切り出しているのです」
「ふ~ん・・・・・・・」
シャルロットは玉座から立ち上がり俺の近くまで来ると耳元でこう言った。長い金髪が俺の顔にかかる。
「本当はどうなの? 知らないでしょ? 其方は知ったかぶりをしているだけ・・・・・違うかしら?」
「俺は帝国陸軍の少将だ。帝国と共和国の関係を知らないと思ったら大間違い。さらに言えば帝国と同盟が結ばれなかったとしても俺はそれで良いと思ってる。なんせ帝国は共和国に癒えるはずのない傷跡を残したんだからな」
「なら何で同盟を?」
「王女様はフランス帝国時代のアルチュセール家の現当主。当然、当主としてかつての栄光を取り戻す為に分裂した共和国を統一したいと思っていますよね?」
「統一はしたいわ。でも資金と武器が・・・・・・ね」
北フランスと西フランスはイギリス連合王国の支援を受けているため資金も武器にも困ることはない。でも南フランスは後援者がいない。そのため充分な軍事力を持つことができずにいた。
「後援者がいなければ北フランス、西フランスを打ち負かすことはできない。南フランスの後援者は俺が引き受けます。もちろん確執のある帝国にではなく俺自身が貴方方の後援者となります!!」
「何!?」
「?」
俺はハッキリとそう言った。帝国と同盟を組むのは不可能・・・・・ならば個人で盟約を結んでしまえばいいと・・・・・・・シャルロットやフランソワは呆気にとられていた。
「後援者って言うのは莫大な資金が必要なのよ? 国が後援者って言うのは聞いたことあるけど個人の後援者って言うのは聞いたこと無いわ。前例もないわね・・・・・・・ところで其方はどれくらいの資金を持っているの?」
「2兆6000億マルクです」
「2兆6000億!?」
「国家予算以上レベルの資金を何で一般の人が持てるのよ・・・・・・あり得ないわ」
さらに2兆6000億マルクとは別に4000億マルクの資金もあるのだ。間違いなくあり得ない金額だ。英雄となりあらゆる国から援助を受けていた結果だ。
「根拠もなく支援するとは言っていませんので・・・・・・後援者になるからにはこちらもそれなりの資金はあります・・・・・・・・」
「それなりの資金っていう規模じゃないわよ。どうしようかしら・・・・・ね? フランソワ」
シャルロットは俺から離れるとフランソワの方を向いた。純白のドレスに頭には銀色に輝くティアラ・・・・・・振り向きざまに香るバラの匂い。すべてが気品に満ち溢れていた。
「姫様、ご自身でお決め下さい。私は姫様の意見に従います」
「・・・・・・わかったわ。ユズキ=クオン、我ら南フランスはドイツ帝国ではなく其方だけに従うわ」
「いえ王女様、これは対等な同盟です。従う、従わせるなど関係ありません。苦しいときは互いに助け合い、楽しいときは互いに笑い合いましょう。これが同盟の条件です。受けてもらいますか?」
俺は跪くと頭を下げた。
「ユズキ=クオン、立ちなさい。其方が跪いた状態では対等な同盟と言えないわよ?」
「はい」
シャルロットは俺の手をとると立ち上がらせた。シャルロットのスカイブルーの瞳が視界に入る。
「対等の同盟であれば堅苦しい敬語なんて要らないわよ。私のことはシャルロットとでも呼んで良いわ」
「ああ、俺のことはユズキと呼んでくれ・・・・・・・あと南フランヌの味方は俺だけではない。俺が率いる第一航空戦隊の2万の仲間がいるからな」
「それは心強いわね」
それに・・・・・・もしもの時はレイシア少将や康介もいる。
「それにしても其方は声だけ除けば女子みたいね。華奢な体躯に美しい銀髪に緑色の瞳・・・・・羨ましいわ~」
金髪から甘い香りが鼻腔をくすぐる。
「いえ王女様のが数倍美しいです」
「フフッ、ありがとう。まあ何がともあれこれで其方と私は運命共同体ね。栄枯盛衰の道を共に歩むということになったわ。 と言うことで・・・・・ユズキ! 私と結婚しなさい!!」
・・・・・・はっ? この姫様は今、何て言った? 結婚とか聞こえたけど聞き間違いだよな。
「え?」
「聞こえなかったかしら? 結婚って言ったのよ。人生は旅のようなものだわ。山もあれば谷もある。一人では乗り越えられない山も二人いれば越えられるわ。だから・・・・・・其方と二人ならって思っているの・・・・・・・・ダメかしら?」
これどうすりゃ・・・・いいんだ。地盤を持たない俺が王女と結婚してこの戦争を勝ち抜けば将来は万々歳だ。でも・・・・・・・脳裏に浮かぶのは友那のことだった。ここで結婚を了承すれば友那を裏切ることになる。
「・・・・・・・・」
「悩んでるわね。わかったわ。返事は待ってあげる。私はいつでも大丈夫だから」
シャルロットはそう言うとニコッと笑った。こうして俺は南フランスとの同盟締結に成功した。




