第21話 軍権の返上
機巧暦2140年1月・ドイツ帝国フランクフルト
「ま、負けただと!?」
「はい。30万の軍は瓦礫の下でドルシア中将も消息不明とのことです」
「・・・・・・・宰相は何と言ってる?」
「次の策を講じると近臣に話しているようです」
「そ、そうか」
家臣の言葉にオットー=フォン=マーシャル海軍大臣はホッと一息つく。フランクフルトが諸侯連合軍に占領されれば元凶のヘルマンはもちろんマーシャルも処刑されるため気が気でない・・・・・・・さらにマーシャルの場合、自分は巻き込まれただけという被害意識が強かった。そのため捕縛されたとしても命乞いをすれば、もしかしたら処刑は免れるかもしれないという考えがあった。
「ハァ・・・・・・・・」
「大分、精神的に参っているようだな」
「・・・・・・レイシア!? どこから入ってきた?」
「陛下に会うついでに少し様子を見に来ただけさ。警戒することはない」
レイシアは大臣執務室にヒョッコリと顔を出す。
「・・・・・・・・」
「私が隠居する前と随分と容姿が変わったな。痩せこけてるぞ」
「ふぅ・・・・・・アレに付き合わされれば誰だってこうなる。常軌を逸脱した暴君だアレは・・・・・・」
「自業自得だな。大臣は元来、法に遵守な賢臣だったはず・・・・・・それが欲に惑わされ今に至ったのだ。同情なんか出来ないな。諸侯連合軍はヴュルツブルクを破りこのフランクフルトに攻め込んでくるはず。それまで残り少ない人生を楽しむといい」
「な、何か助かる方法は無いのか!!」
レイシアが背を向けるとマーシャルが情けなくそう叫ぶ。
「ハァ・・・・・・それじゃ酒を飲みながら対策を話すとしよう」
「わ、分かった」
その後ーーーー
「大臣は此度の騒動の原因をご存知かね?」
「専横極めるヘルマンを討伐し歪んだ政道を正すためだろ」
「うむ。ヘルマンはもちろんの事、大臣、貴方も討伐対象になってます。命乞いでは助からないでしょうね。まあ一つ助かる道は・・・・・・今、握っている軍権を返上して自領に隠棲すること。今いるフランクフルト軍70万の内、30万が北軍としてヘルマンが軍権を握り南軍30万は大臣が握っている状況。それに対して陛下を守る近衛兵は僅か10万・・・・・・・・」
「何が言いたい?」
レイシアの言葉にマーシャルがイラついたように言う。
「もしヘルマンに帝位簒奪の意志があればいつでも陛下を殺せる状況。でも大臣が南軍の軍権を陛下に渡せば北軍と近衛軍の兵力差は互角・・・・・・・・・つまり大臣は軍権を返すだけで多大な功績を上げることが出来るのだよ」
「・・・・・・・・」
マーシャルは酒を飲みながら考える。散々好き勝手にやってきた自分が果たして功績を立てからといって諸侯が許してくれるだろうか・・・・・・と
「考えるより急いだ方が身のためだと思うが? 何せ諸侯連合軍はドサクサに紛れてアルフレート本家を占領したと聞いている・・・・・・これでヘルマンは帰る領地が無くなったということだ。大臣も急がないと領地が無くなるぞ」
「わ、分かった。急いで軍権を陛下にお返ししよう」
「うむ」
マーシャルの返答にレイシアは満足げに微笑む。その後、マーシャルは軍権を皇帝のアイネスに返すと屋敷の荷物を纏めて日がある内に領地へと帰っていった。
レイシアはマーシャルが手放した南軍30万の軍権をアイネスから貰いヘルマンの野望を打ち砕くことになった。結果的にアイネス、レイシアのアルフレート分家VSヘルマンのアルフレート本家の戦いとなっていった・・・・・・・