第20話 略奪の心配
機巧暦2140年1月・ドイツ帝国ヴュルツブルク・諸侯連合軍
「・・・・・・・な、何が起きてるんだ」
「今、偵察を出したからもうすぐ報せが来ると思うが・・・・・・・・」
深夜の大騒ぎに目を覚ましたカーチスとレーゲルは状況把握のため偵察部隊を出していた。諸侯らも状況把握のため兵士らが右往左往して慌ただしく動いていた。
「カーチス将帥!! 状況が分かりました!!」
「どうだった?」
「深夜に北の森と南の森から大火災が発生しその後、ヴュルツブルクの城壁が爆破され崩落、さらにその後無数の剣戟に発砲の音がしました」
「・・・・・・・・敵の仲間割れか?」
偵察の報せを聞いたカーチスとレーゲルは首を傾げる。
その後ーーーー
「カーチス大将、グレイス様がお目通りしたいとのことです」
「グレイス? それは誰だ?」
「さぁ・・・・・・」
カーチスの問いに従者は勿論、レーゲルでさえ首を傾げる。魔導航空戦隊で名が広まっているのはやはり柚希と友那のみだった。
「レーゲル大将もカーチス大将もお元気そうで何よりです。私、魔導航空戦隊・アルフレート=フォン=ユズキの副官を務めていますグレイスと言います」
「うむ。で、何の用だ?」
「アルフレート=フォン=ユズキ少将が要塞内に単機突撃し敵将・アルフレート=フォン=ドルシアを撃破し、ヴュルツブルクを守る30万の敵軍を撤退させることに成功致しました」
「え?」
「・・・・・・・・やはりか」
カーチスはあんぐりと口を開け、レーゲルはやはりという表情をする。
「グレイスとやら、ユズキは我が本営の命令なしに勝手に動いた・・・・ということだな」
「ユズキ少将が言うには俺らは遊撃部隊、主力部隊の命無しに動いても問題はない。寧ろ積極的に動かなければならない・・・・・・と話していました」
「なるほど・・・・・レーゲルどうする?」
「どうするってどういう事だ?」
「このまま遊撃部隊を先鋒としてフランクフルトに攻め入るか、それとも一旦、退いて部隊を再編してからまた来るかだよ」
「再編する意味あるか?」
カーチスの言葉にレーゲルが疑問を投げかける。
「戦力的に遊撃師団、第一師団、第二師団だけでフランクフルトを攻略できるかもしれないし・・・・・・・まあ一番大きな問題は貴族らが率いる質の悪さなんだけどな」
「・・・・・・・・確かにフランクフルトで略奪をやられても困るな。分かった。フランクフルトに連れていくのは第一師団、第二師団、遊撃部隊のみにしよう」
寄せ集めの軍勢特有の末端まで命令が通らない問題が起きていた。カーチスやレーゲルは軍勢に対して略奪行為禁止を命じていたが守られるはずがなく各地で略奪、放火、暴行が相次いでいた。貴族の中には幼児や子供を誘拐して自軍で奴隷として人身売買する者まで現れる始末だった・・・・・・・・・
それに対してカーチス、レーゲル、柚希の部隊は略奪行為を厳禁し、もし破ればどんなに優秀だろうが親しかろうが問答無用で銃殺刑となり見せしめとしていた。そのため略奪行為は一切無かった。
「グレイスとやら、この通り遊撃部隊を先鋒としてフランクフルトにいるアルフレート=フォン=ヘルマンを討伐せよ。あとユズキにはくれぐれも無茶はするなと釘を刺しておいてくれ」
「カーチスの言う通りだ。ユズキは昔のような一兵卒ではない。今はアルフレート家を継いで現皇帝の叔父だ。死なれては困る」
「分かりました。戻ってユズキ少将にその旨を伝えます」
カーチスとレーゲルはグレイスに対して心配げにそう言う。