第13話 ヴェーザー川
機巧暦2140年1月・ドイツ帝国・ヴェーザー川
「カーチス大将、全軍集結致しました!!」
「うむ。各軍の将帥をここへ集めろ」
「御意」
檄文を見た諸侯はすぐに兵を集め、ベルリンとフランクフルトの間を流れるヴェーザー川下流地域に総勢80万が集結した。
軍議ーーーー
「我ら諸侯連合軍はフランクフルトの北南に位置するマイン川を渡りヴュルツブルクを突破しフランクフルトに侵攻することにする。異論はあるか?」
「カーチス将帥、ヴュルツブルクは左右を山に囲まれた天険の要害・・・・・・いくら我が軍が多くとも攻略は厳しいかと思われます」
「ここはヴュルツブルクではなくさらに南のニュルンベルクを通り西側に進路を取りマンハイムを経由してフランクフルトに侵攻するのが良いと思う」
「・・・・・・う~む」
各軍の将帥は中央に広げられた地図を見ながら策を練る。
「いやヴュルツブルクの東側は断崖絶壁。歩ける道といえば人一人がやっと通れる桟道のみ・・・・・・・」
「奇襲にはもってこいの場所じゃない? まさか敵も桟道から来るとは思ってないでしょ?」
第五師団長・アレクサンドル=ハリウス大将と第六師団長・ナーレス=エルヴィスがそう言う。
「エルヴィス師団長やはり桟道からは厳しいと見るか?」
「はい。もし通過中に桟道を焼かれれば大損害になります。敵の襲撃の際に隠れる場所は皆無となりましょう」
「なら航空部隊でいけないか?」
「稼動中の航空部隊はゼロだ。複葉機は先の大戦で消耗し尽くし、財政赤字から製造も出来ない状況だ」
ハリウスの提案にレーゲルは首を振りそう言う。
「・・・・・・何で魔術師の時代なのに魔術師が一人もいねぇんだか」
「仕方ない。元々いた魔術師はフランスやロシア=ソビエトに流れてしまったんだ。そのお陰で魔導航空戦隊の一個師団しかいない・・・・・・まあその航空部隊も今は何処にいるか分からない状況だがな」
その後も軍議を続けるが何も決まらず夜中まで続いた。
「はぁ・・・・・・」
「zzz」
「・・・・・・・・・zzz」
「カーチス将帥、客人が見えてますが如何なさいますか?」
「客人? こんな夜更けにか?」
「はい。魔導航空戦隊師団長です」
各軍の将帥が疲れ果てて寝ている中、カーチスとレーゲルはウトウトしながらも起きていた。そんな2人に衛兵が駆け込んできてそう言う。
「ユズキが来たのか!?」
「!?」
「はい。あの灰色の亡霊です!!」
2人の顔に笑みが浮かぶ。
ーーーードイツ帝国・ヴェーザー川
「なぁ、親父こんな夜更けに大丈夫なのかな?」
「分からねぇ・・・・・・・まあ寝てたら明日にでも挨拶すりゃいい」
「・・・・・・・」
「ユズキ少将、カーチス、レーゲル両将帥がお呼びです」
「ああ」
俺らは帝都ガリウスを出た後、しばらく彷徨った末にこのヴェーザー川に来ていた。運が良いことにたまたま駐留していた帝国軍と合流することが出来たのだ。
その後ーーーー
「よく来たな。ユズキ」
「無事ベルリンから脱出出来たのか・・・・・・」
「まあ・・・・・何とか」
俺は両腰に帯刀したままレーゲル、カーチスに謁見した。2人とも疲れ切っているようでゲッソリしている。
「我らは専横を極めるアルフレート=フォン=ヘルマンを討伐するために諸侯連合軍を結成し新都リナを攻める。ぜひユズキ少将にも協力願いたいのだが。どうかね?」
カーチスはそう言う。レーゲルも期待の眼差しで俺のことを見る。
しかし俺は・・・・・・
「申し訳ないが協力は出来ない」
「?」
「・・・・・・」
唖然とするレーゲルとカーチス。
「ユズキ少将なりの考えがあると見える。今すぐ訳を聞きたいところではあるが・・・・・・・今日はもう夜更けだ。明日に聞くとする。下がれ」
「御意」
レーゲルが険しい表情でそう言う。その日、俺は軍に戻り寝床に入った。