第11話 フランス
機巧暦2139年10月・南フランス首都リヨン
ドイツ帝国が迷走している中、南フランスは自国のソリが合わない北フランス・西フランスをどうするか迷っていた。
「シャルロット様 北フランスと西フランスが手を組む前に我らは東のイタリア王国と手を結ぶべきです!」
「そうです。イタリアと手を結べばドイツ帝国に対抗出来ます!!」
「・・・・・・イタリアだけではドイツはもちろん北フランス・西フランスにさえ対抗できないわよ」
リヨン王宮の広間でシャルロット=アルチュセールが家臣に呆れながらそう言った。イタリア王国は軍事力や経済力が低くシャルロットから見れば手を組むなんて有り得ない相手だった。
「シャルロット様、イタリア王国はかつてフランス共和国とドイツ帝国やブリテン島、さらにスペインやバルカン半島を支配していた巨大帝国ですよ?」
「・・・・・・・イタリアは資源も人材も我が国より劣っているわ。昔は巨大帝国だったかもしれないけど今は弱者にすぎないわ」
シャルロットはイライラしながらそう言った。それを察したのか1人の軍人がこう言った。
「姫様、意見よろしいでしょうか?」
「フランソワ元帥ね。話していいわよ」
南フランヌの陸軍元帥であるアンリ=フランソワは幼くして両親を亡くしたシャルロットの育て親だった。
「姫様の言われるとおりイタリアはかつては強国でしたが今は弱小国です。よって我らが手を結ぶべき相手はドイツ帝国です」
「え!?」
「元帥よ、血迷ったのか!? この共和国に侵攻しようとしているのはドイツ帝国なんだぞ!」
「国を敵に売るつもりか?」
「黙れ!! フランソワ元帥は自分の意見を話したまで、その意見を捨てるか拾うかは私の胸にある!!」
フランソワの意見に家臣たちが次々と罵詈雑言を浴びせるがシャルロットに怒鳴られる。その後広間が水を打ったように静かになると頃合いを見計らっていたのか護衛兵がシャルロットが座る玉座の前に跪いた。
「王女様!! 歓談の最中に申し訳ございません」
「歓談ねぇ・・・・・・何かしら?」
「王宮の門前に不審者が立っていまして、立ち去るように申しても聞かないのです」
「不審者?」
「王女様に謁見したいと申しているそうで・・・・・・どうなさいます?」
「・・・・・へぇ~なら会おうかしら」
「ではお連れします」
「姫様あまり素性が知れぬ御方を近づけないほうがいいかと・・・・・」
「はいはい、わかりましたよ」
「ハァ」
シャルロットは貧民、貴族、商人と身分関係なく接するところがあり普通に街に護衛なしで街中に出歩くことが多かった。フランソワはそんなシャルロットを危険だからと諫めていた。
その後ーーーーーー
「お連れ致しました」
「ご苦労、下がっていいわよ。他の人も下がっていいわよ。ああ、フランソワ元帥は残りなさい」
「しかし・・・・・・・・」
「王女様 どこの輩かわからぬ者ですよ?」
「王女様の身が危ないのに下がれません!」
「まったく貴女達は言うことを聞かないわね。いいから下がれ!!」
家臣たちは渋々その場から立ち去っていった。広間には不審者とシャルロット、フランソワだけが残った。
「まずは名を名乗ってもらえるかしら?」
「・・・・・・・」
不審者の格好は黒い膝丈のロングコートに右胸には金色の鷲をかたどったバッチを身に着けていた。腰まで届く長い銀髪に鉱石のような緑色の瞳の持ち主だった。
「お初にお目にかかります。名はユズキ=クオンと言います」
「聞いたことない名前ね。出身はどこかしら?」
「孤児故に出身はわかりませんが今はドイツ帝国におります」
「ドイツ帝国・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
ユズキと名乗った人物はそう言った。シャルロットとフランソワは少し警戒した。
「失礼ですが、灰色の亡霊の名は聞いたことありますか?」
「もちろん聞いたことあるわ。規格外の防御魔術を保有していて撃墜させることは不可能と言われてる帝国の不死鳥よね?」
「アハハッこのような場所にも名が轟いているとは光栄です」
ユズキは無邪気に笑った。シャルロットは口をあんぐりと開けた。何が可笑しいのか理解できなかった。フランソワも同様の反応だ。
「ああ言い忘れてました。灰色の亡霊は俺のことなんで以後お見知りおきを王女様」
「はぁ!?」
「ムムッ」
ユズキは華麗にお辞儀をした。突然のカミングアウトに二人は唖然する。それとは対照にユズキはしてやったりとイタズラっぽく笑った。