第9話 憲兵の襲撃
機巧暦2140年1月・ドイツ帝国ベルリン
「酒」
「少し控えては如何ですか?」
「いいから」
「はい」
アルフレート=フォン=ヘルマンは宰相職に就いてから安心しきってしまい連日連夜、酒浸りの日々となっていた。
「ヘルマン宰相、レーゲル大将らが貴方様のお命を狙っていると噂されております。お気をつけを・・・・・・・・」
「・・・・・・ならば遷都を早めるか」
「このベルリンは独立諸侯らの影響力が強く。貴方様も上手く政治を動かすこともままらない状況。暗殺の危険もございます故、一刻も早く遷都するのが上策かと思います」
ヘルマンの側近はそう言うとヘルマンの盃に酒を注ぐ。
「そうだな」
「いっそのことレーゲル大将を逮捕してみては如何ですか」
「罪をでっち上げて冤罪で亡き者にする・・・・・ということか・・・・・・・」
「はい」
配下からの助言にヘルマンはニヤリとする。
近衛府ーーーー
ガサッ ガサッ ガサッ ガサッ!!
「な、何なのだ君らは!?」
「司法大臣からの命により貴方を逮捕致します」
「なっ!? 罪を犯した記憶はない!!」
翌る日、近衛府に白い外套を羽織り手には銃剣を持った集団が近衛府に詰めかける。彼らは司法大臣管轄の憲兵隊で大臣らの逮捕や暗殺を任務としていた。抵抗した近衛兵らは憲兵隊により殺されていた。
「臣下として在らざる態度をとったとして不敬罪との事はです。私も普段の貴方の立ち居振る舞いを見ていないので何が臣下として在らざる態度なのか分かりませんが・・・・・・・罪状を出ている以上、貴方を逮捕致します」
「陛下はこの事について承知なのか?」
レーゲルは憲兵隊の指揮官にそう言う。しかし指揮官は首を横に振る。
「この司法大臣からの命は極秘ですから陛下には内密です。宰相が独断でそう判断なされたことだと聞いています」
「宰相が勝手に判断しただと!? ・・・・・陛下からの命とあらば私は大人しく逮捕されよう。だが陛下以外の臣下が勝手に出した命には従わぬ!!」
「・・・・・・・・そうですか、ならば強行致します!! この者を捕縛しろ!!」
「「御意」」
指揮官にそう言われた4人の憲兵はレーゲルにじりじりっと迫る。
「・・・・・・・・」
カチャ
レーゲルは腰の長剣に手を掛ける。
辱めを受けるならいっその事・・・・・・・
レーゲルは長剣を抜くと剣先を自らの喉元に向ける。
「自決するか・・・・・・」
「近衛大将!! お逃げなさいませェェェェェ」
ズダダッ ズダダッ ズダダッ
「グハッ」
「うっ!!」
「何者だ!?」
剣先が喉元を貫く瞬間に生き残っていた近衛兵が10人程がレーゲルの背後から憲兵隊に向かって銃を発砲する。
「近衛兵だと!?」
皆殺しにしたはずの近衛兵らの登場に憲兵隊指揮官は狼狽える。
「近衛大将あちらからお逃げ下さい!!」
「・・・・・・わ、分かった。ありがとう」
スチャ
レーゲルは長剣を鞘に収めると走りだす。護衛には近衛兵3人が付き添う。近衛府の出口まで来るとレーゲルは馬に乗りそのまま帝都から脱出した。
その後ーーーー
「何!? レーゲルを取り逃がした!?」
「申し訳ございません」
司法大臣は宰相ヘルマンに頭を下げた。
「近衛兵は勇猛果敢にてレーゲルを逃がすために憲兵隊に突撃し多数を殺しました・・・・・・・」
「言い訳など聞きたくない!! 役立たずが!!」
「うぐっ!!」
ヘルマンは跪く司法大臣の頭を掴むと壁に押しつけた。
「この失敗は死をもって償え」
「や、やめ!!」
パンっ!!
背中から銃で撃ち抜かれた司法大臣はゆっくりと崩れ落ちるように床に倒れた。
「役立たず共め。フランクフルトへの遷都を早めなければ・・・・・・」
ヘルマンはそう吐き捨てた。




