第8話 災厄の種
機巧暦2140年1月・ドイツ帝国・ベルリン宮殿
「よく来たな!! ユズキ!! 待ってたよ我が戦友」
「お久しぶりです。レーゲル大将」
俺はベルリンに着くなり宮殿を訪ねた。最初に顔を合わせたのはルブルク要塞戦で共に戦った第一師団長のアーチゾルテ=レーゲルだった。
「アハハ畏まるな! 戦友同士だ。気楽にやれ」
「ありがとうございます」
・・・・・・・前のような冷静な紳士はどこへ、カーチス大将のような陽気な感じになってる?
カツッ カツッ カツッ
「他の師団長らは何処へ?」
「まあな・・・・・・他の仲間は自分らの領土に引き篭もっていてね。宮殿には滅多に姿を現さないんだ。皇帝の権威が衰えてから家臣らは独立諸侯になってしまったんだ」
「・・・・・・・・・・独立諸侯?」
「誰も彼も皇帝の血を引いているものだから帝位を狙っているんだ。彼らが領土に引き篭もっているのは今の新皇帝の様子を見るため・・・・・・・・敵わないと見れば従い、弱いと見れば噛みつくだろう。私も独立諸侯の一人だよ」
「・・・・・・・・・・・」
(アルフレート家も独立諸侯なんだよな・・・・・・つまり反乱を起こすことは可能ってことか。王権が弱まれば予てから押さえつけられてた諸侯は王に従う必要はなくなる。王権欲しさに相争う地獄が具現化するって事か・・・・・身内同士で争い応仁の乱になるか・・・・・外部勢力の介入を許して八王の乱から五胡十六となるか・・・・・って事か)
「さぁここだ」
「・・・・・・・・ん」
廊下を歩いていたレーゲルが扉の前で止まる。
「陛下の謁見室だ」
「ああ・・・・・・・・」
ギィィ!!
扉が開き室内が露わになる。赤いカーペットに金色のシャングリラ・・・・・・そして玉座に座る美少女。
「よくぞ来られた。アルフレート=フォン=ユズキ陸軍少将。既にアルフレート家より書簡が届いていた故、待ち遠しかったぞ」
「有難き幸せ」
銀色の長い髪に紅い瞳・・・・・・華奢な体躯
「我の名はアルフレート=フォン=アイネス。叔母・アルフレート=フォン=レイシアの愛弟子・・・・・いや養子であり私の叔父・・・・・・貴方は我が身内だ。歓迎するぞ」
「・・・・・・・・はっ!!」
俺は跪き頭を下げる。アイネスの隣にいる陸軍大臣兼宰相のアルフレート=フォン=ヘルマンは何処か不満な表情をしていた。
ーーーーベルリン近衛府
「ハァ~疲れた・・・・・・・」
「数々の修羅場を潜った灰色の亡霊がたかが謁見くらいでへばるなよ」
「いや何度も経験してますけどやはり謁見は緊張します」
「まあ私も人のことは言えないがな」
謁見後、俺はレーゲルに誘われて近衛府の執務室に来ていた。
「近衛大将に昇進していたとは・・・・・・」
「即位式の際に陛下から任命されてね。有事の際は陛下をお守りしなければならない・・・・・・近頃、陛下の周りに奸臣がいるらしい。用心しなければな」
「奸臣?」
「陸軍大臣の事だ。近いうちに遷都する話が出ているんだが・・・・・・遷都先が廃墟同然の地域なんだ。陸軍大臣は肥沃でベルリンにも劣らない地域だと陛下に話していてな」
「・・・・・・・・・」
「奴は辺境に陛下を押し込み実権を奪った末に殺すはず」
「そ、その時はレーゲル大将の味方をします。俺も養子とは言えどもアルフレート家の人間ですから」
「うむ。宜しく頼む」
レーゲルはコーヒーを飲みながらそう言う。コーヒーの苦みのせいか、それともこれから起こるであろう災厄のためかレーゲルは顔をしかめる。