第5話 ハンブルク
機巧暦2140年1月・ドイツ帝国・ベルリン陸軍大病院
「ユズキ様、今日で退院ですよ」
「今までお世話になりました」
「いえ回復なされて何よりです」
看護師から退院を告げられた俺は荷物を纏め病衣を脱ぎ、いつもの黒い軍服の上から白いロングコートを羽織る。両腰にはそれぞれ1本ずつ刀を差す。
ハァ、師匠がいるハンブルクへ向かうか、それともブレーメンに向かうか・・・・・・・どうしよう。
俺は頭の中でそんなことを考えていた。
病院出口ーーーー
「迎えに来たぞ。バカ弟子」
「師匠・・・・・・」
「ハンブルクへ行くぞ。ベルリンやブレーメンは既に我らがいるべき場所では無くなった。ハンブルクでしばらく過ごすといい」
「あ、ありがとうございます」
「行くぞ」
俺はその後、高速鉄道で東プロイセンのハンブルクへ向かった。
ーーーー東プロイセン・ハンブルク
「さぁここが我が家だ。入るといい」
「デケぇ・・・・・・」
ファンタジーとかで見るような屋敷だ。バカにデカい庭に森林まである。屋敷は古いとは言えしっかりと整備され壁には苔の一つも無い。
ギィィィィィィ
「「「お帰りなさいませ!! お嬢様!!」」」
「・・・・・・・・」
「フッ」
屋敷の扉が開くと左右に10名のメイドが俺とレイシアを出迎える。
「本当に名家の出身なんだな・・・・・・」
「まあ名家故の窮屈さもあるがね。さぁこっちだ」
「あぁ」
螺旋階段で2階に上がり長くて暗い廊下を歩く。奥の暗闇からゾンビが這い出てきそうでかなり怖い・・・・・・・・
「さぁ入れ」
「・・・・・・・」
「柚希!!」
「親父!!」
6畳程の部屋に通された。部屋には友那、リム、レム、ラム、グレイスが椅子に座っていた。俺が扉から顔を覗かすと5人は安堵が混じった嬉しそうな表情をする。
「さて役者が揃ったところで今後の事について話し合おうではないか」
その後ーーーー
「・・・・・・師匠が言うには帝国は既に瓦解していると?」
「先帝イリアスが何とか抑えてきたがな。先帝亡き今、幼帝なのを良いことに各家がやりたい放題らしい」
「俺らはどうすればいいんだ?」
「ユウナからは確かブレーメンが南フランスに乗っ取られたと聞いている・・・・・・・ブレーメンから逃げろと言ったのは君だろ? 帰る場所が無い君らは新たに拠点をつくって独立するか・・・・・それともブレーメンを攻めるか。この2択しかないだろう」
「独立?」
俺は首を傾げた。独立すれば当然帝国から攻め込まれる・・・・・・
「そう。帝国が守ってくれる時代は終わったのだよ。自分らのことは自分らで守れ」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「まあどうするかは自分らで決めてくれ。私がわざわざ介入することでもない・・・・・・・君はどうしたいんだ?」
レイシアはそう言うと怠そうに葉巻に火を付ける。今のレイシアにかつての覇気は無く完全に世捨て人のようだった・・・・・・
「俺は・・・・・・・・帝都の混乱につけ込んで暴政をひく陸軍大臣を退け幼帝を助けます。アルフレート=フォン=アイネスを今の状況から救ってみせます。帝を立て再び帝国を生き返らせてみせます」
「・・・・・・・・全く君は困っている人には弱いな。帝国の再興か・・・・・・帝国は時代遅れの産物ではあるが、まあそれも悪くはないか」
俺の言葉にレイシアはそう言う。友那、グレイス、リム、レム、ラムも同じ腹積もりだったらしく俺の考えに異を唱えなかった。ちなみに先帝崩御と新皇帝即位の情報はラジオで聞いていた。
「どこまでやれるか分からぬが、まあ君らで最大限やってみるがいい」
「分かりました」
ヤレヤレといった感じでレイシアはそう言う。