第1話 始まりの戦争
拝啓、晴れのち曇りで視界良好にて絶好の戦争日和です。お父さん、お母さん、お元気ですか?
俺が異世界に転移させられてから半年が経ちました。俺は相変わらず砲弾と銃弾の雨を浴びながら戦っています。
奮闘の甲斐あってか、転移時のどん底だった身分がわずか半年で帝国の陸軍大尉まで上り詰めました。いずれは元帥を目指すつもりです。周囲の部下や上司にも恵まれています。
そちらの世界はお変わりないでしょうか?
機巧暦2139年9月・ポーランド共和国
「大尉、何を書いているのですか?」
「ん? ああ心を落ち着かせるためだ。こうやって書いていると心が落ち着くからな」
戦場のド真ん中に建てられた仮設テントの中で俺は机に向かっていた。
「そうですか。そういえば、準備が整いましたから全軍に指示をお願いします」
「ああ、わかった」
俺は椅子から立つとテントから出た。目の前には俺の直属の軍が立ち並ぶ。総勢100名余りの小さな軍だが実力は充分だ。
俺の名前は久遠柚希ーーーーーーー
この異世界ではドイツ帝国所属の陸軍大尉だ・・・・・・・異世界転移する前は名もないバカな男子高校生だった。
「我が帝国は無謀にも東西の大国に喧嘩を売りやがった!! 我々は軍人である前に人間である。皆には親や子、妻や兄弟姉妹がいる!! 殺さなければ殺されるのが戦争だ。大切なモノを守るために・・・・そして祖国の平和と正義を貫くために軍人としての役目を果たすぞ!!」
「「「おォォォォォォォ!!」」」
「神は我らと共にある!! 諸君らの健闘と無事を祈る!!」
兵士たちは拳をあげて熱狂していた。
「ふぅ~ 緊張した・・・・・・・・・・」
本当は戦いたくないのに・・・・・・苦しい辛い・・・・・・・
「お疲れ様・・・・だな。相変わらず自分を偽ってるな」
「少将・・・・・」
テントに戻ると一人の女性が待っていた。特徴的な腰まである燃えるような紅い髪をポニーテールとキリッとした紅い瞳。彼女の名前はアルフレート=フォン=レイシア陸軍少将。今回の作戦の総指揮をとっている人物だ。
俺が異世界転移してから色々とお世話になっていて大体の考えや気持ちは隠していてもバレる。俺にとって頭が上がらない相手だ。
「陰から聞いていたよ。まったく君の言うとおりだ。帝国はこの戦争に勝ち目はないだろうな。参謀本部は何を考えているのやら・・・・・」
チラッ
「・・・・・・・・俺は何も知らないぜ。思わせぶりな視線はやめてくれ」
レイシアは君なら大体の予想はついているだろうと言わんばかりの視線を送ってくる。
この異世界は戦争状態だ。ドイツ帝国は元はプロイセン王国というドイツの連合体の中の小さな国に過ぎなかった・・・・・・
それが一人の宰相・オットー=フォン=カリウスの手によって統一されドイツ帝国となった。さらに統一戦争に干渉してきた大国・フランス帝国を討ち破り皇帝を捕虜にする大戦果をあげる。
皇帝が捕虜になるという屈辱を受けたフランス帝国は崩壊し共和国となりドイツ帝国に復讐を誓う。しかしその機会はオットー=フォン=カリウスの外交政策により阻まれることになった。
《徹底した孤立外交》ーーーーーーーー
フランス共和国一国ではドイツ帝国には敵わないため各国と同盟を組もうとした。しかしカリウス体制と呼ばれる複雑な外交政策によりどことも同盟を結ぶことが出来ずに孤立した。
しかし俺が異世界に転移してきた頃にはオットー=フォン=カリウスは既に他界していて若き帝国皇帝のもと軍拡に乗り出していた。
宰相がやった孤立外交は誰も操作できずに破棄された。それまでの協調路線から強硬路線に切り替え各国との同盟をすべて破棄していた。
その結果、フランス共和国はドイツ帝国の東にあるロシア=ソビエト連邦共和国と同盟を結び、宰相が恐れていた東西の大国に帝国が挟まれるという最悪の状態になった。
最悪の状態を打破するにはロシア=ソビエト連邦かフランス共和国を滅ぼすしか方法は無かった。そして今、レイシア少将が率いる一個師団《2万》の帝国陸軍はロシア=ソビエト連邦とドイツ帝国の間にあるポーランド共和国に向けて進軍中だった。
「・・・・・まあ一つ言えることは帝国は最悪の手段を選んだってことだろうな。ロシア=ソビエト連邦との条約を破棄したばかりか殴りかかろうとする・・・・・バカとしか言いようがねぇ」
「でも破棄した条約を再び結ぶことは出来ないから・・・・・・これは仕方ないな。まあ君の戦場での働きには期待しているよ。頑張りたまえよ陸軍大尉」
レイシアはそう言い残すとテントを出ていった。
条約の破棄は宣戦布告を意味するのだ。帝国はイヤでも二正面作戦を展開しなければならなくなった・・・・・・・