平穏な日(3)
「さてさて」
綾音が話を変える。
「どする?このあと」
その問いに私が答える。
「そうだねぇ、もう暗いし近場だねー」
「駅前で済ませよっか」
「いいよ」
どこで道草を食うかの相談だ。
私は徒歩、二人は電車通学。
駅は私の帰り道から少し外れる。
「カラオケ?」
私が提案すると綾音が言う。
「んー、門限きっちぃかも」
「あやちゃんち、何時だっけ?」
これはさゆみの質問。
「7時よー」
「あー、あと1時間じゃろくに歌えないか」
「ていうか電車に乗ってる時間を考慮してくれ。1曲が限度だわ」
「そだね。取り敢えず駅までいこうか」
「おけ」
「いこー」
話していても時間は進む。
私たち3人は教室をでて学校を後にすることにした。
校舎の外に出ると、眼前に広がる遅咲きの桜。
およそ八分咲き。満開の時期は近い。
日は没っした。
街灯が替わりに町を照らす時間。
「きれい……」
さゆみが呟いた。
暗闇の中で光に照らされる桜並木は、幻想的だ。
非日常的を思わせる風景。思わず足が止まる。
隣の二人も同じだった。
「花見でもしたいねぇ」
綾音が言った。
桜が並び立つ道を三人ならんで歩く。
「いいねぇ、でも今日は無理でしょ」
「そだねー、すでに門限ギリギリだわ」
さゆみが言う。
「じゃあ、明日桜を見に行こうよ」
「あれ、明日って休み?」
「そうだよ。県民の日」
「良子。さてはお前、非県民だな!」
綾音が茶々を入れる。
「チャキチャキの地元っ子ですわ」
「ああ、県民の日を知らないなんて嘆かわしい」
「そうねー、何故かおぼえないねー」
「話もどしていい?」
さゆみが軌道修正を試みたのでおとなしく従う。
「お花見だけど、どこのにする?」
この子は、髪の毛と同じでふわふわした雰囲気の子なのだが、意外と強引で行動的なところがある。
「有無を云わせぬつもりかー」
「あやちゃんはやめとく?」
「いくよ、予定なし。ひまひま」
「やった。りょーちゃんは?」
「いけるよ。んで、行き先に提案あり」
「どこ?」
「私の地元でお祭りやってるから、そこ」
「なに、この町が地元じゃないんか、非県民」
「同県ですー」
笑いながら、私たちはふざけあっている。
平穏ないつもの光景。
「そこにしよっか」
「さんせー」
「よし、明日9時にこの駅前に集合」
それは日常か。
いや、違う。
「うちらの路線に目的地があるん?」
「いや、別の路線」
「あー、あっちの私鉄かー。あっち高いんだよなー」
今までとは、違うもの。
そしていつかは失う、たまたま手にいれたいっときのもの。