平穏な日(2)
がらがら、という音をたてて引き戸が開く。
その人物は、こちらめがけて猛然と駆け出す。
ターゲットはどうやらこちらのようだ。
足を踏ん張り、全身でそのタックルに身を構える。
その小柄な人物の突撃は大した威力もなく、私の手により受け止められた。
「りょーちゃーーん!」
「どしたん」
私にしがみついたさゆみが叫んだ。
いつもよりテンションが高い。
「さゆみんとこ、ホームルーム長すぎんね」
横から綾音が口を出す。
「違うよー」
「だからどしたん」
「酷いんだよ!」
「何があったか言えっつーに」
どうどう、と私がさゆみを落ち着かせ、さゆみの息を整えさせる間を与えた。
「何で私のクラスだけテストがあるの!」
「知らんがな」
私はそう答えた。
「担任って白崎せんせだっけ」
「あー数学の」
私はなんとなく察した。
「この前の小テストで、クラスの数学の平均点が一番低いからって、酷いよね!」
「あーねー」
白崎先生は、堅物だ。責任感が強く落ちこぼれを許さない。
「抜き打ちテストとかしても別に成績上がらないやね」
綾音が言う。
「間違えたところを分析して、あとで個別に指導するんだって」
塾だろうか。
その熱心さに、むしろ先生に感心する。
「平均以下の人だけでいいのにね。平均以上取れた人は迷惑な話だね」
「うう……、私も平均以下だったけど」
私はじと、っと冷たい視線でさゆみを見た。
綾音も同様に。
「うー」
さゆみは語彙を無くした。