十二話
目を覚ますと、見たことのない灰色の天井が見えた。
裸の電球は青白い光を煌々と放ち、スチール製の机と順也の寝ているソファを見守っている。
カチカチと時計の音だけが無機質な部屋に響いていた。
ガチャリと音を立てて扉が開くと、マスターは微笑みながら部屋に入ってきた。
机の上にグラスを置いて、順也の様子を伺う。
「はい、冷たいおしぼり。お茶もあるから落ち着いたら飲んでね。順也くん、大丈夫かい?」
順也は、心配そうに問いかける初老の男性に頭を下げた。
「マスター……すみません、俺どうなったんですか?」
「殴られたんだよ、ボクシングの試合みたいにノックダウン――あ、そうだ。みんな二次会に行ったよ。約束通り、今日は貸し切りだからゆっくりしていくといい。頭も打ってるし、今日は一人になっちゃいけないよ。また後で様子を見に来るからお茶でも飲んで休んでなさい」
マスターは順也のお礼を聞き届けて、また笑顔を見せるとお店へと戻っていった。
殴られたことに気がついたせいか、じわじわとこめかみが痛む。
ズキンとする頭部に冷たいおしぼりを当てると、首から下へ熱が下がっていく感覚を感じることができた。
ひんやりとした感触が心地良く、夢ではない現実の出来事なのだと思い知らされる。
「いてぇ……情けねぇ……なんで俺は、いつも中途半端なんだ」
自分が練った計画がうまくいかなかったことを順也は嘆いた。
壁に掛けられた時計を見ると、夜の十一時。
あと一時間で珠希の誕生日が終わってしまう。
ダイニングバー『レッドラム』の店内には、マスターの好きなジャズが流れている。
誰もいない店内で、マスターは自分の時間を楽しんでいるようにも思えた。
お茶を飲んで気持ちを落ち着ける。
二次会の会場を探しに行こうと思い付いたとき、パタパタと扉の近くで音が聴こえた。
そして、ゆっくりと扉が開いて珠希が現れた。