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十一話

 

「前から行きたかったお店があるんだけど、ちょっと付き合ってよ」

 由美子は美容室を出て、合流した珠希に提案した。

 切ったばかりの髪型の話題で盛り上がる中、或る計画が進行していた。


 立花珠希、三十五歳の誕生日を目前に控える五月二十六日――。

 繁華街を歩く由美子には、”行きたかったお店“などない。

 予め待たせてある順也と親友を再会させるのが、今日のミッションだ。


 待ち合わせ場所であるサンドイッチ店は、お昼を過ぎても注文待ちの人で溢れていた。

 店内に入ると、行列の最後尾に順也の姿が確認できる。


「――ねえ、あれ順也くんじゃない?」

 わざと大きめな声で指摘してやると、順也は()()()()()()()をして、笑顔のまま振り返った。

 もう少し自然にやってほしい、と由美子が心の中で呟いたが彼に届くことは一生ないだろう。


 隣に立つ親友は、彼の顔を見て眉間に皺を寄せている。

 そしてすぐさま愛想笑いを作り、無言でお店の行列に飲み込まれようと別の行列に並び始めた。


「あれ、どうしたのこんなところで? 珠希、久しぶりじゃん!」

 演劇の知識などない由美子から見ても、順也に演技の才能は全く感じられなかった。

 そんなダメ出しに気づく素振りも見せず、彼は由美子たちと一緒に並び直してレジまでの短い行進へと加わった。


 由美子の段取り通り、一緒に食事をするように仕向けると渋々ではあるが、珠希も了承する。

 順也は楽しそうに話しかけて、珠希はうんざりした口調であしらう。

 そんな二人のやり取りを見た由美子には、自然と笑顔が溢れた。

 気がつけば珠希も笑っている。


 二人にとってこの再会は最後のチャンスになるだろう、と由美子は思っていた。


 *



「もうすぐ珠希の誕生日だろ? パーティー……しないか?」

 順也は自分の提案に、自信を持って言葉を続ける。

 由美子は予定になかった計画に驚いたが、面白そうだと思って賛同することを決めた。


「俺の知ってる店を借りられると思うから、お願いして貸し切ってさ。な、やろうよ! いっぱい人呼んでさ、今までの友達も、知り合いも、あと彼氏とか、元彼とかも呼んでさ!」


「わー、それ面白そう。今どきはSNSもあるしね、全員集めちゃおう!」

 由美子が計画への参加表明をしたことで、珠希は諦めたようにうなだれた。


「えー……私、誕生日会なんてやったことないよ」

「だったら余計に良いじゃない! 三十代も半分きたし、人間の人生で知り合い全員が集まるのって三回しかないんだよ? 生まれたとき、結婚式、あとお葬式くらいしか――」


 この日からバースデーパーティーの計画は、たっぷりと時間をかけて行われた。


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