病室にて -メリーさん-
「あのさ」
本条が携帯ゲームの画面を見つめながら、僕に語り掛ける。
「ん、なに?」
「”メリーさん”って、おるやろ?」
「あー……本条が言ってるのって、あの最終的に背後にいる奴のこと?」
僕がそう言うと、本条は呆れた顔で僕の方を見た。
「いやいや、ネタバレしてどうすんねん」
「いや、僕ら両方ともが知っていることを言っただけなんだから、別にいいだろ」
「それは、あかんよ」
本条は目を閉じて、首を横に振る。
「だって、お前メリーさんの立場を考えてないもん」
「へ?」
僕は、また本条が変なことをいいだしたぞ、と思った。
本条はそんなことには気にも留めず言葉を続ける。
「いま、ここに"メリーさん"が居たとして、お前の言葉を聞いてたら、どう思うやろ?」
「え、いや間違ったことは言ってないんだから、別に何とも思わないんじゃない?」
「ちょっとマズいな……その共感能力の欠如した感じ、将来のお前が心配や」
「いや、"メリーさんの立場を考えろ"って言い出してる男の方を、僕は心配してる」
「メリーさん、女の子やから……大事にしてあげてほしいねん」
「知らないよ。……じゃあ、メリーさんがその時に、どういうリアクションを取るのか見せてよ」
僕が、そう本条を唆すと、本条は何も言わずスッと立ち上がった。
コホンコホンと咳ばらいをして、喉の調子を整えている。
その後、腕を伸ばしたり、屈伸をしたり……恐らく意味のない準備運動を始めた。
次に天井を仰ぎ見るかのように首を持ち上げて、両手を広げると、目を閉じたまま立ち尽くし始めた。
僕は呆れて見ていたが、本条が長々と"それ"をやっているので、仕方なく声を掛けた。
「それ必要か?」
「うん、これで"メリーさん"を俺の中に今、降ろしてるから……”憑依”ってやつやな」
「いや、メリーさん一つ呼ぶのにそこまで本気出さんでもええよ」
「ちょっと集中してるから、黙って」
僕はむかついたので、ベッドの上から、本条の腰の辺りをガシガシと蹴った。
本条は痛いらしく、ちょっと表情を歪ませながらも"憑依"を続けている。
本条が1分ほど"それ"を続けた後、ようやく閉じていた目を開けた。
「よし、じゃあいくで。メリーさん」
「うん、頑張って。本条、自分でハードルをめっちゃ上げてるからな」
「それを乗り越えていくのが、俺やから」
「はいはい、さっさとやってよ」
「あ、ごめん。ほんまに、ちょっと待って……緊急事態や」
本条は真剣な表情で、頭を抱えだした。
「どうした、本条?」
「いや、メリーさんになりきって、何をしたらええんか……忘れてしもた」
「えー……」
病室にて -メリーさん- -続く?-