船上のファッションショー
ブ、ブックマークが…あああありがとうございます!ありがとうございます!精進致します!
田中への怒りを叫び疲れた私は用意された個室へ移動する。
デッキを去る際、何人かに怪しい人を見る目で見られた。
うう…田中めぇ…
船内にある個室は20程。
今日船に乗っている移住者は10人。全員がリーシャ王国に行く訳ではないらしい。最寄りの港から各々が希望した国に行くのだ。
リーシャへ行くのは私含めて3人。女の人と男の人。どちらも商売人との事だ。
個室に入ると早速タンスを開ける。
入国監理局で田中から見せてもらったリーシャ王国の服。
あの時はちらっとしか見てなかったから作業着っぽいと思ってたけど、手に取ると少し固めの布地だ。
ファッションにあまり詳しくないからよくわかんないや。
取り敢えずブラウスに袖を通す。アイロンがかかった真っ白なブラウス。袖のところの3つのボタンを留める。ボタンに柄が彫ってある。これは…鳥?可愛い。
ワンピースは腰の上心臓のちょい下くらいまで5つのボタンで留める。
う、これ、はジャストサイズでもちょっと苦しい…。
やったことはないけどコルセットみたいな…?
タンスには様々なサイズの同じ服が入っているので1サイズ大きめを選び直した。うん、これくらいならご飯食べても大丈夫。
ジャストサイズだとご飯3杯しか食べられなかった。
丈は膝下10センチって所か。学生に戻ったみたい。
黒い腿まである靴下を履きブーティみたいな靴を履く。
よし!完成だ!
私は部屋に設置してある姿見の前に立つ。
そこにはリーシャ王国の服装に身を包んだ肩まである黒髪をひとつに纏めたぼんやりとした顔の女がいた。
うん、私デス。
何だか地元の女子高の制服っぽい。
いや、色がベージュだから分かりにくいけどこれ制服だわ。
足元が辛うじて普段着っぽく見える。
26にもなって女子高の制服コスをするとは…。
ま、まあ、知り合いもいないし、これが正装なんだしね?恥ずかしくなんてないよ?若返った気もするし!
……ちょっと恥ずかしい……。
一通り百面相した私は自分が着ていた服を畳む。
これは私の戦闘服だった。黒のタイトスカートと白いワイシャツ。黒のストッキングに黒のパンプス。
この装備を着ると私は己にも周りにも厳しい人間となる。
効率を重視し予定を組み期日内に仕事を終わらせる。
良き先輩になるように、後輩にも厳しく優しく接してきた。
…………つもり、だったのに。
田中には元の世界に帰ってやるとか言ってたくせに、帰りたくないと思う自分がいる。
会社に行かなきゃ任された仕事を終わらせなきゃと焦る自分と
もう会社に行きたくない、仕事なんて知るかと放棄する自分。
家族に会いたいと考える自分と、家族に縛られたくないと思う自分。
私はどうしたいんだろう…。
田中が言う通り帰れないんだとしたら、私は……。
外はいつの間にか夕陽が落ち暗くなり始めている。
リーシャ王国には明日の午後に着く。
まずは異世界の研究をしている魔術師に会って。
それから決めよう。
焦ったって仕方がない。
頭を切り替えた私はシャワーを浴びて髪を乾かしながらタンスから下着を取り出す。
スポーツブラとショーツ。どちらも密封された袋に入っている。新品だ。当たり前か。
ブラジャーはまあ仕方がない。サイズが色々あるしね。スポーツブラがあっただけでもありがたい。
ショーツも無地だが履き心地いい。
もしかしたら異世界の人が作ったのかもしれない。田中みたいに手に職を持ったのだろう。
パジャマらしきものはなかったから下着姿でベッドに入り早めの就寝。
色んな事がありすぎて疲れちゃったよ、おやすみなさ~い!
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翌日よく寝た私は用意された朝食を食べ船内を探索する。
昨日はすぐに部屋に戻ったからよく見てなかったんだよね。
デッキに出ると何人かに挨拶をする。
和服みたいな服を着た人がいる。シマノ国に行くらしい。見事な筋肉とにかっと笑った時の白い歯が眩しいマッチョなお兄さんだ。シマノ国はリーシャより東にあるからまだ船旅が続く。
白い服を着た研究者っぽい人はヒューネ王国へ。魔法の研究をするんだとか。ヒューネはリーシャと近いので最寄りの港で降りてから西に5時間。
鮮やかな民族衣装に身を包んだお姉さんはライマ共和国へ。議長になるという高い目標を聞かせてくれた。移住者でも議長になれるらしい。……まあ、パンフレットがアレだったしな…。ライマは船で2日。
デッキでボーッと景色を見ていると海の色が変わった。それまでの青い色から碧色になる。
「もうすぐ港が見えるわよ。荷物持って降りる準備した方がいいわ」
私に声をかけたのは褐色の肌が印象的なお姉さん。リーシャの服を着た私と同じ移住者だ。
「あ、そうなんですね。ありがとうございます!準備してきます」
部屋に戻って荷物(といっても通勤用の鞄と服しかないんだけど)を持ってデッキに上がると、「ザナ港に着くぞー!」という声が聞こえた。