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移住しますか?はい、しましょう

青空と青い海を死んだ魚の目で見ている女がかつていただろうか。


いや、いると思う。思うが頭の中の混乱具合はかなりのものだろう。


うん、海だ。私が住んでる所から1番近い海まで1時間はかかる。勿論、車でね?


私立ったまま夢見てる?そこまで疲れてた?


そう思って自分の頬を思いっきりつねる。



…うん、痛い。涙出てきた。現実だわ、これ。



現実とわかったならやることは1つ。



くるっともう一度建物に目を向けた。

そこには先ほどと同じ金髪碧眼の美少女が首を傾げている。かーわーいーいー!!


「えっと、すみません。移住を希望しているんですけどパンフレットとかありますか?」



まずは状況を把握せねば!


「はい、パンフレットですね!今移住者を募集しているのは4つですね!こちらがパンフレットです!」



美少女ちゃんからパンフレットを受けとって近くの椅子に腰をかける。



まずは文字。…読める。日本語ではない。英語っぽいけど綴りはめちゃくちゃだ。だけど読める。


1番上にあるパンフレットに書かれている国はヒューネ王国。信心深く勤勉な国民性で医術や魔法が盛んな国。ほほう!魔法とな!?これぞファンタジー!

因みに写真には勉学に励む子供の姿が。

下の方に『補習を受ける王太子』

………何か泣けてきた。何故パンフレットに載せてるんだ。そこは勉学に励む、とかでいいんじゃないか?悪意が見える。提供国王。負けるな王太子!国王が何となく母親と重なった。


2番目はライマ共和国。国民投票で選ばれた議長と呼ばれる人物が統治する海洋都市国家。任期は1年。主な産業は漁業。そして写真には国民と肩を組んで踊っている議長の姿が。

いや、駄目だろ載せちゃ。因みに議長のコメントには『1日の労働のシメは酒だよね!』と書かれている。来期が心配です。


3番目はシマノ国。四方を海に囲まれた小さな島国。なんか疑似感があると思ったら国民の服装が和服ぽいのだ。主な産業はこちらも漁業と林業。そして大きな字で『傭兵希望者大歓迎!!』と書いてある。写真には剣や槍やら弓を構えた武人達が写ってる。あかんここ無理。体育会系は兄達でこりごりデス。


最後はリーシャ王国。緑に囲まれた豊かな土壌。主な産業は農業。国のはずれには深い森がありそこは魔界に繋がっているとか。え、怖い。

でもここ何百年と争いはないらしい。魔界に繋がる森には魔術師団がいて結界を張っているとのこと。写真には収穫した野菜を手にした国王の姿。……国王なの?この人?!めっちゃ普通じゃん!



私がパンフレットとにらめっこしていると美少女ちゃんが声をかけてきた。


「お決まりになりましたか~?」


「あの…ちょっと聞きたいんですけど、日本、て国ご存知ないですか…?」


「ニホン…うーん…


ごめんなさい、ちょっと聞いたことないですね~」



やっぱりか…


「詳しい事は奥にいらっしゃいます入国審査官の方にお聞きしてみてはいかがでしょう。3人いますけど右の方はここに勤めて長いので~」


美少女ちゃんに促されて右を見れば眼鏡に七三のなかなかのイケオヤジが列に並んだ人に一言二言告げて横に置いてある水晶玉に並んだ人が触れる。そして何か書いて並んだ人に渡す。次の人も同じ。流れ作業だ。

何だかサラリーマンが書類を淡々と捌いているように見える。



そうだね、聞くだけ聞いてみよう。これ以上の事は美少女ちゃんもわからないだろうし。

「ありがとうございます」


「いいえ~。良い出会いがあるといいですね~」


美少女ちゃんが手を降って送り出してくれた。

よくわからない状況だが彼女の存在は救いだ。癒し、最高。



列の最後尾に並んで順番を待つ。私を含めて15人くらいか。1人30秒くらいで捌いている。

サラリーマンだ…。


あっという間に私の番になった。


「はい、お名前をお願いします」

と言いながら書類から私に目線を移すサラリー…入国審査官。

「おや、今日は貴女で最後ですか。それではお名前を」


「ハル・シドウです」


「…はい、ファミリーネームがシドウですね?」


「はい、あの」

「それではこちらの水晶玉に手をかざしてください。貴女の基礎情報が表示されます」


うーん流れ作業。私で最後らしいからさっさと終わらせたいんだな。

水晶玉に手をかざしながら私は審査官に質問してみる。

「あの、日本って国ご存知ないですか?」

パアッと水晶玉が緑色に光る。



「はい、貴女の情報が出ましたよ」

聞いてない!!!!こんにゃろう!!!!



「ハル・シドウ。女性。年齢は26歳。役職は"異世界人(いせかいびと)"。称号は"闇への誘い(やみへのいざない)"。

ああ、日本ですか。知っていますよ。異世界にある国ですね。移住先はいかがいたしますか?」




「淡々と衝撃事実を言うんじゃねぇよっ!なんだよ役職"異世界人"て!役職なのか?!後なにその厨二っぽい称号!日本知ってるの?!帰る方法は!?」

ツッコミが追いつかない!


ぜぇ、ぜぇ…


私が肩で息をしていると入国審査官は「移住先どうします?」と催促する。



「その前に、元の日本に帰る方法は…?」


審査官は眼鏡をくいっと上げる。


「ありませんよ。異世界人はある日ふらっと現れるんです。貴女で1358人目ですがこれまで誰も元の世界に帰ったと言う事例はありません」


結構いるんだね、異世界人……。

帰れない…。


「あ、移住先はリーシャ王国なんていかがです?魔法はヒューネが秀でていますが、リーシャの魔術師に異世界の研究をしている者がいるそうですよ?もしかしたら帰る方法がわかるかもしれませんね」


確率は非常に低いですが。

とぼそっと呟いたの聞こえたぞ!


…まあ、ここにいるよりその研究者に聞いた方がいいのか。


「あ、でもお金が…」


財布にいくらか入っているけど通貨は違うだろう。



「あぁ、大丈夫ですよ。移住者なんて着の身着のままの人多いですし。移住先の居住地は確保していますし服装は支給されます。リーシャ王国では皆さん同じような服装ですから」


そう言って入国審査官は奥にある棚から洋服を取り出した。

丈の長いワンピース。色はベージュ。シンプルだ。ちょっと作業着っぽいな。


「ここにあるのはこれのみですが、リーシャでは色々な色がありますよ」


そういって審査官は時計を見る。


「おや、あと少しでリーシャ行きの船が出ますよ?」


「…わかりました。リーシャ王国への移住申請をお願いします」



「……はい、ではこの書類を持って船に乗ってください。船はここを出てすぐ前の青い旗を掲げた船ですからね。さ、急いで。あと30分で出港ですよ」




審査官に急かされながら私は書類を手に出口へ急ぐ。出口では美少女ちゃんがまた笑顔で手を降ってくれた。

ああっ!せめて貴女の名前を聞いておきたかったっ!



船に近づくとそこの受付に書類を渡す。

リーシャ王国へは船で1日。

そこから馬車で3時間ほど掛かるらしい。

説明を受けていると出港の時間が迫りデッキに行くようにここでも急かされた。




船のデッキでこれからの事をボーッと考えていると「シドウさーん!」と呼ぶ声がした。


下を見ると入国審査官と美少女ちゃんが手を振っている。


見送ってくれるのかな?優しいじゃないの。

と私も手を降り返すと入国審査官が


「言い忘れていましたが、私田中信三郎といいまーす!10年前にこちらにきた日本人でーす!

じゃ、良い旅を~!」

「私、アイラっていいまーす!私はここの住人でーす!良い旅を~!いってらっしゃぁい!」




出港ー!という誰かの大きな声と共に動き出す船。










「たなかぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!

お前何が知ってますよ。異世界の国ですね。だ!同郷じゃねぇか!!ぶん殴らせろ!!あと美少女ちゃんはアイラちゃんって言うのね!可愛い!

田中覚えてろよ!?絶対元の世界に帰ってやるんだからなぁぁっ!!」








ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「いってしまいましたねぇ」


仕事中には絶対見せないであろう満面の笑みを浮かべて入国審査官こと田中信三郎はハルを見送った。


「シンザブロウ、ホントいじわるですね…」

「いやぁ、だって面白そうじゃないか。"闇への誘い"なんて称号初めて見たよ。どうせ帰れないんだし、退屈しない人生の方がいいよね」


この人だけは敵に回したくない。アイラに出来るのはハルの旅の安全を祈る事だけだった…。

主人公の名前は志藤葉瑠(しどうはる)

メインヒーローの登場もう少し後になります。

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