綺麗なお姉さんは好きですか?
天気が不安定で体調を崩しやすいので皆様体調にはお気をつけください。と風邪を引いた私が言っても説得力ありませんが。
よろしくお願いいたします。
扉の向こうから聞こえた女の人の声に体が緊張する。
カナタさんの話の後だから侍女だと思うんだけど、念のためその場を動かずに話す。
「どなたですか?」
「…今日よりお世話を仰せつかりましたミシャと申します」
やはりそうか、と安堵するがカナタさんの忠告通り私からは開けない。
「私から扉を開けることはできません。そちらから開けていただけますか?」
私の返事に1拍置いて
「畏まりました」
そうしてガチャリ、と扉を開ける音がして綺麗な女の人が入室した。
長い金色の髪に透き通るような肌、キリッとつり上がった瞳は青く此方を射抜くように見つめる。
背中には蝙蝠の羽根。女の私からしても羨ましいくらい大きな胸と細く引き締まった腰。そこから伸びる足の長さといったら…。
ん?何故こうも体に食いつくのかって?
だって侍女ってメイドさんでしょ?リーシャ城のメイドさんはマンガやアニメでよく見る昔ながらのメイドさんだった。簡素なメイド服の丈は膝下まである。
それがどっこいこのミシャさんの衣装はどうでしょう。
高級感たっぷりの黒いボディスーツは胸元は大きく開き腰の辺りまで切り込みが入った…これはいわゆるハイレグ、と言うやつだ。
うん、まあ、どう考えても給仕に向いてる格好ではない。
私がミシャさんに見惚れている間にも、彼女は鋭い視線を向けている。
その綺麗な顔の眉間の皺が一層深くなったと感じた時、彼女は言葉を発した。
「……………サミエルは、こんなちんくしゃのどこがいいの……?」
「ちんくしゃて」
そりゃー貴女やカナタさんからしたら私なんてちんちくりんでちんくしゃで没個性の女ですけど!
いや、引っ掛かるのはそこじゃなくて。
…この人、もしかして…。
「カナタから貴女の世話をする様に言われたわ。本っっ当あの男は最低最悪な性格だわ!!」
最低かどうかは判断しかねますが性格は悪いなと思います。
ミシャさんは私を睨みながら言葉を続ける。
「カナタはあんたを認めているようだけど、私は違うわ。いいえ、この城、この魔界全ての魔族はあんたを認めないわ!」
「サミエルの妻に相応しいのはこの私!ずっと昔から想っていたのよ!サミエルの事を何も知らない、あんたみたいなちんくしゃ娘なんて絶対に認めない!!」
綺麗な顔を歪ませながらそう叫ぶ彼女に、私はじっと黙ったままだった。
私が歓迎されていないのは分かっている。サミエルの事だって魔王だ、って事くらいしか知らない。第一サミエルは私のどこが好きなのかもよく分からない。
ずっと好きだった相手がいきなり連れてきたのが敵対視する人間で容姿もパッとしない私だったからよけい許せないのだろう。
だけど私は彼女を嫌いにはなれなかった。
いやちんくしゃとか言われて傷ついてはいるんだけど、それよりも彼女に対して嫌悪より好意の方が勝っていた。
彼を想い私に嫉妬する彼女は人間の少女と変わらない。
恋に人間も魔族も関係ないのだ。
「可愛いね」
思わず呟いた私の言葉にミシャさんは大きくのけ反る。
おお、素晴らしいいなばうあ…
「私の話のどこを聞いたらそんな結論に至るのかしら!?脳味噌解剖するわよ!?」
私の顎を長い爪が食い込むくらい激しく掴む彼女にも怯むことはない。
それに気づいてしまったのだ。
「貴女、本当はサミエルの事好きじゃないんでしょう?」
だって私の顎を掴む手は動作こそ激しいものの爪が食い込まないよう優しく掴んでるし、彼女から激しい殺意が放たれていない。
「…………っ」
ミシャさんは顔を赤らめ私を睨んだまま黙る。
やがて泣きそうに顔を歪めた彼女が口を開く。
「……それでも私はあんたが嫌いだわ。
あんたはあいつも取る気なんでしょう?」
「……あいつ?」
サミエル以外に誰を取るんだ?いや、サミエル以外で思い出すのは彼だがどう考えても論外だ。
「…あんたが来るって聞いて私は嫌味で言ったのよ。"魔王が惚れるくらいいい女なら貴方だって惹かれたんじゃなくて?情夫にでもしてもらったら?"って!そしたらあいつ何て返したと思う!?」
「ワカリマセン」
もうあいつじゃねぇか。絶対嫌味に嫌味で返す男だぞあいつは。
というか情夫って貴女…。
「私が初めて見る嬉しそうな顔をして!"それは素晴らしい案だな"って言ったのよ!?あんた陛下だけじゃなくてカナタまで奪うんでしょう!?」
「絶っっっっ対嘘だ!!それ絶対"新しい玩具見つけた"って顔だったはず!カナタさんが私を!?今日はエイプリルフールか!?質の悪い冗談だ!!」
大体サミエルだけでも私には過ぎたる存在なのに、カナタさんまでとか絶対無理!どこかのドラマの小姑みたいに「ハルさん、ここに埃が溜まっていますよ…これだからうんぬん」みたいな事を最上級の笑顔で言うに違いない!
私が必死の形相で伝えると、ミシャさんは私を睨むのを止める。
「……そう…、貴女はその気はないのね」
というか多分ミシャさんの想いに気づいて言ったよね…。うん、ホント性格悪いわ。
「…そういう事なら、さっきの発言は謝罪するわ。
まあ、これくらいの挑発で泣くような女だったら本気で引き裂こうかと思ったんだけど」
ミシャさんは髪を掻き上げながらそう告げた。
「貴女もサミエルに気に入られて災難ね。あいつの事だから強引に誘拐でもしたんでしょ」
「あー…、まあ強引って言えば強引だったけど、誘拐って言うよりホームステイ?何だかんだでお友達から始めてくれるらしいし」
「…………お友達……?」
ミシャさんが変なものを見る目で私を見る。
「うん。それに本気で嫌がる事はしないし。この部屋もサミエルが選んだんでしょう?」
「え、ええ…サミエル自ら内装から家具の設置までやっていたわ」
そんな事まで…。
サミエルが内装を施している姿を想像して、思わず笑みが溢れた。
「…魔王のくせに優しいよね」
「…あれ?ミシャさん?」
「…………臭い…」
「…え?」
眉間に皺を寄せて黙っていたミシャさんが私に何かを投げつける。
「…な、なに」
「さっきから(人間)臭いのよあんた!奥の浴室で体洗ってきなさい!!」
投げつけられたのはバスタオル数枚。ミシャさんは部屋の奥の扉を指差す。
臭いって………臭いって…………!
「加齢臭か!?私から加齢臭がするのか!?」
「何それ?いいから入ってこい!終わったら着替え用意してあるからそれに着替えるのね!」
ミシャさんに押しきられる様に浴室に入れられた私は苦悩する。
この年で加齢臭か…。うう…、消臭剤を用意せねば…。
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ハルを浴室に押し込めたミシャのこめかみに冷たい汗がつたう。
「…………サミエルが、優しい………?」
自分達が知っている魔王とは程遠い、ハルのサミエルへの印象にミシャは震えが止まらなかった。
登場人物追加しました。
ミシャ(♀)
淫魔。250歳くらい。
金髪青眼の美女。抜群のプロポーションを誇る。
サミエル、カナタとは幼なじみの様な関係。
プライドが高く他人を見下す発言をするが肝心な所でツメが甘い。チョロい。




