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魔界へ

亀更新で申し訳ありません。

ブックマーク、ありがとうございます!

やって来ました、この日が。


扉の前で腕を組み仁王立ちでこちらを見つめるサミエル。

その後ろで静かに佇むカナタさん。


私の両隣に陛下とセランさんが立っている。

その後ろにニールと先日友達になったリリーちゃんがいる。


「ちょ…っ、スッゴい美形じゃない!ハルったら隅に置けないわねぇ~」

そう言って私の背中をバシバシ叩くリリーちゃん。


い、痛い…。すっごく痛い…っ!


見かねたニールがリリーちゃんを羽交い締めにして2人で言い合いをしている。



「人間が増えておる…」


リリーちゃんに若干引いているサミエルがうんざりした顔でため息を吐く。


「彼女には1週間ハルさんの食事をここに運ぶ大事な仕事を請け負ってもらうのでね」

「…食事ならば魔界の…」

「先日みたいな事がある。お前の息のかかった料理は一切口をつけるな、と言い聞かせている」

はい、セランさんに5時間ほどみっちりと説教をされました。

その時に口酸っぱく言い聞かせられたのです。


「………チッ!」

「今舌打ちした!?やっぱり一服盛る気だったのかお前は!」

「そろそろ時間だ。行くぞ」

「無視かっ!!」


私を無視してサミエルがカナタさんの方を見る。

するとカナタさんが私の前まで来て私の持っている荷物を持ってくれた。


「…えっと、それではいってきます」

私は一歩踏み出すと陛下達の方を向き、頭を下げる。



「…気をつけてね」

「いいな?絶対に!魔界の食物を食べるな!」

「美人の魔族がいたら教えてくれよ!」

「体調崩さないようにね!帰ったら女子会だから!」


誰が誰だか察して下さい。とりあえずニールは教えてどうする気なんだ…。


サミエルが私の手を取る。

「決して離してはならんぞ」

私が目を瞑っているのを見てフッと彼が笑う。

私はしっかりと握り返し、扉の中に足を踏み入れる。




瞬間、空気が変わった。


人間側でも扉の周りは空気が淀んでいたが、その何倍もの濃い瘴気が全身にまとわりつく。


「目を開けてよいぞ」

恐る恐る目を開けると、人間側よりも暗く鬱蒼とした森。

「……………」

上を見上げると、さっきまでお昼だったのに空は薄暗い。


「…体調に異変はないか?」


サミエルの優しい問いかけに私は手足を動かしたりする。


「…うん、今のところは吐き気とかもないし大丈夫」



「それは良かった。では城に戻るぞ」

因みに私の右手はサミエルと繋がったままだ。だって魔界怖い。


「お城はここから近いの?」

「ああ。この森も城の敷地内だ。まあ、森と言っても扉を囲うだけの小さなものだがな」

「近くなければこうも度々魔王が人間界に行きませんしね」

「ほら、あれが余の城だ」

「都合が悪いと話を無視する癖改めろよアホ魔王」

「貴様は主を敬う気持ちをもっと持つべきだがな!」

「…………はは…」

どっちもどっちだよ…。


私はサミエルが示した方向へ目を向ける。

「……………でっか……」


鬱蒼とした森が突如開けて目の前には荘厳な城が現れた。

リーシャの城も大きかったけれど、こっちの方が遥かに大きい。

魔界らしく暗い色合いの外見だけど、威厳があり圧倒される。


城が放つ威圧的にも感じるオーラに尻込みしている私を無視して2人は城の方へ歩いていく。

すると城から何人もの魔族が出てきた。

「サミエル様!また城を抜け出して…!」

そう言いながら私達の周りに群がる魔族達。


蝙蝠の羽根の魔族や厳つい角が生えた魔族。狼男みたいな外見の魔族もいる。

結構色々な種族がいるんだなぁ…。

私がそんな事をボーッと考えていると、1人の魔族が私に気づいた。


「……人間臭いと思ったら…。何故人間が我らが王の側にいる…?」


その言葉に他の魔族が一斉に私に殺気を向ける。


「………っ」

今まで味わった事のない恐怖に震えカチカチと歯が鳴る。

狼男が牙を剥き出して私に襲いかかろうとした時。



彼らよりも強く、冷ややかな殺気が私の前方から放たれた。


「貴様ら…誰の許しを得てそのような無礼な真似をする…?

この者は今日より"幽玄の間"の主よ」

サミエルの殺気に怖じ気づいた魔族達は彼の言葉にざわつく。


「まさか、この者が…」

「…人間が"幽玄の間"の主…」


殺気から解放された私は今度は値踏みされるような視線に晒される。


「と、ともかく陛下には早急に片付けて頂きたい事案がございまして…」

角の生えた魔族が困惑した表情でそう告げるとサミエルはわざとらしくため息をつく。


「…仕方あるまい…。カナタ、ハルを部屋に案内せよ」

そう言うと、サミエルは魔族達を連れて城の奥へと消えていった。


「………」

今までずっと繋いでいた手の温もりが消えた寂しさから私は無意識に自分の右手を見つめていた。

「…ご案内致します、ハル様」

カナタさんの優しい声に顔を上げると、彼は優しく微笑んでいた。


…多分カナタさんは私がサミエルと離れて寂しくなってるのバレバレなんだろうな…。


カナタさんに促されて私達はその場から歩き出す。


長い廊下を歩いているとあちこちから視線と殺気が突き刺さる。

それでも襲われないのは前方のカナタさんが睨みを効かせているからか。


暫くして廊下の突き当たりにある大きな扉の前でカナタさんが止まる。

「こちらが"幽玄の間"です。代々魔王のお妃様が使っていたお部屋でございます」


成る程…。あの魔族達がざわついていたのはそういう意味か。

お妃様が使っていた部屋を人間の私が使う。魔族からしたら心穏やかではないだろう。

扉を開けるとシンプルで可愛らしい内装の部屋だった。

「ハル様はあまり華美な物は好まれないかと思いまして」


へ?そんな事私言ったかな?

首を捻りながら考えて、私は自分の着ている服を見る。

この国に来た時に着ていた服だ。一応何着か持ってはいるが、畑仕事に向いているので同じデザインの服ばかり。

…別に食費にお金が掛かって服にまで余裕がいかないとかではない。


…まあ、確かにキラキラしたのよりこういったシンプルなのが好きだからこの部屋も私好みなのだが。

白で統一された部屋は少し暗いが魔界らしくない。



「…サミエルが色々考えてくれたんだろうな」


「……」

カナタさんが私の言葉に優しく頷く。


カナタさんがテーブルに私の荷物を置く。因みにお弁当2個です。

私の方を向くと真剣な顔で告げた。


「ハル様、あまりこの部屋からお出になりませぬよう。

この部屋に結界が張っております。サミエル様と私、それから身の回りの世話をする侍女以外通ることはできませんが、念のため扉をノックしてもハル様から開けてはなりません」


きっと先ほどまでの悪意のある視線や殺気から私を守るためなんだろう。


「……この城、いえ魔界には先の大戦の当事者がまだいますからね…」


困った様な顔でそう説明してくれたカナタさんが、そろそろ陛下の元へ戻ります、と告げたのでお礼を言って送り出す。




「…………っ」

1人になると先ほどの殺気を思い出して震えが止まらない。


どうにか抑えようと部屋の中央にあるソファーに膝を抱える様に座る。

それでも震えは治まらない。それほどにあの殺気の渦は怖かった。



私は、歓迎されていない。わかっていた事なのに。



コンコン

「!!」


扉をノックする音に続いて


「失礼します」


知らない女の人の声が聞こえた。

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