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殻に籠りたいと本気で願った日


「…えーと、その……今のは………」


私に向けられる生暖かい視線に耐えられず、言葉がしどろもどろになる。




サミエルは依然顔を隠したまま黙っている。



て、照れてる?顔も赤いような……





………違う!こいつ笑いを堪えてやがる!

顔を赤くするほど可笑しいか!!




「そうか~。まあ、ハルさんがサミエルを受け入れるなら無理矢理引き裂く訳にもいかないか」


陛下とセランさんが顔を見合わせる。



「君の返答次第では、君に国外退去してもらい、結界を強固に張りなおすつもりだったのだ」



あ…っぶね!もう少しで私国外追放されるところだった!



「…愚かな。余がハルを諦める筈がない。ハルがこの世界にいる限り余はハルを求める。



そもこの国の結界は先の戦で弱くなっているから簡単に来られるが、余が本気になればどこの国の結界であろうと壊すことは出来る。魔力の大半を使うし何より疲れるからしないがな」


笑いを引っ込めたサミエルが陛下達を睨みながらそう告げる。

口元を歪めたその表情はまさしく悪役だ。



それにしても、そうか。と今のサミエルの言葉を反芻しながら考える。


魔界がどれだけ広大なのかはわからないけれど、この国とだけ繋がっている訳じゃない。

サミエルが本気になれば私がどこに居てもこちらにやって来る。


「余が大人しくここにいるのも、旧知である貴様達がいるからだ。

他の国にいけば、大人しくする道理はない。

他の人間なんぞどうでもよい。余にはハルがいればよいのだから」


サミエルは私の髪を1房優しく掴み、髪に口づけをする。



…っ、甘い…!…甘いが怖い!



……私、今絶対顔赤いんだろうな…。


「今の君ならやりかねないね。最悪外交問題になるのは避けたいし、人間側の結界もハルさん以外通れない様に強化しておこう」


ため息をつきながら陛下がセランさんと話し始める。

そこにサミエルとカナタさんも加わる。



…………そういう大事な話、王宮でやってくれませんか…?


とりあえず私はお茶を入れる為にキッチンに戻る。


「手伝う」


ニールは私が持っていたティーポットを奪うとお茶を入れ直す。


「ありがとう、ニール」


私がお礼を言うと、「別に」とぶっきらぼうに返す。

……なんだかいつもと様子が…。


私が内心心配していると、カップを温めていたニールがこちらを見てポツリと呟いた。


「…お前、これでよかったのか…?」


その表情は寂しそうにも不安そうにも取れる。



「…まあ、少し話が急に進んでいってる気もするけどさ。

でもサミエルの事嫌いじゃないし、これから色々とお互いに知っていけば楽しくなると思うんだ。

……魔界に農地を作っちゃうなんて、面白いじゃない?」


私がそう言うとニールも吹き出して「確かに」と笑った。


「ま、お前がいいんなら大丈夫だろ。少なくとも俺は味方だからな」


「ありがと」




ニールが陛下達の元にお茶を持っていくのと入れ替わりにサミエルがキッチンに入ってきた。



「今日ここに来たもう1つの理由を忘れておったのだが、ハルにこれをやろうと思ってな」


サミエルはそう言って腰に下げてあったポーチから何かを取り出して私に渡す。

こぶし大の大きさの紫色の物体。ほのかに香る柑橘類の香り。


「…果物…?」


「うむ!魔界でよく食されている果物だ。皮を剥いて中の実を食べるのだ。余の好物だ、そなたにも食べてほしくてな」


「へえ~…」


言われた通りに皮を剥くと中に丸い種のような実が出てきた。

ザクロより少し大きなその粒を1つ手に取る。



口に入れると甘酸っぱい風味が広がる。美味しい!



「ハルさん達?何をして………………ああああああっ!!」


「ば、馬鹿者っ!吐き出せぇぇぇっ!!」


陛下とセランさんの叫び声にビクッと肩を震わせた瞬間。



……ごくん。




「「「「「…………………」」」」」




…………の、飲んじゃった…………。




「…………ふ、ふはははははははっ!食べたな!?1粒だけが口惜しいが食べたな!!」


サミエルが高笑いをしながら固まった私を抱き上げる。


陛下とセランさんは深いため息をつき、ニールは訳が分からず私と同じく混乱しておろおろしている。


カナタさんは肩を震わせて「…ちょろすぎ…っ」と笑いを堪えている。


え?えっ?何を食べたの、私?っていうか何を食べさせたのこの魔王!


「魔界の食物を食べた人間はその量に応じて魔界で過ごさねばならん!」


な、何ぃぃぃぃぃっ!?


「1粒ですと……そうですね、1週間というところでしょうか」


な、何と!!!???


「だ、騙したなっ!?この鬼!悪魔!」


「そんなに誉めるでない。…照れるではないか」


お姫様だっこをされている恥ずかしさよりも怒りが込み上げて精一杯の罵倒をするも、逆に笑顔で返された。


…そ、そうだった…こいつらは悪だった……。


「お前の考えなしの行動と食い意地が悪い…」


ニールの言葉に陛下とセランさんは深く頷く。



私は人間の3人の呆れの視線に萎縮しながら似た話を思い出していた。


次兄が当時大学で研究していた神話の中に今の私の状況に似た話があったな。

まあ、あちらは私みたいに食い意地が張ってた訳じゃなかったと思うけど。





「近い内に迎えに来よう。魔界は良い処だぞ。1週間と言わず一生居てもよいからな!」


私を床に優しく降ろすとサミエルは満面の笑みを浮かべて帰っていった。勿論来た時と同じく鳥と蛇の姿になって人ごみをするすると抜けて。





後に残された私達は沈黙。



「あ、あの、陛下…」


「今のはハルさんの失態だからね。説明していなかったとは言っても魔界の食べ物を躊躇なく食べるかな普通」


あ、陛下怒ってます?で、ですよねー。普通はあんな紫色の物体に警戒するよね。…だって、美味しそうな匂いがしたので…。


「諦めて1週間過ごしてこい。1週間過ぎても帰ってこなかったら強制的に扉は封印する」


君が向こうにいるのであれば扉は閉じ、封印も出来るだろう。

とセランさんが無表情で告げる。こ、怖い…。


「に、ニールは私の味方だよね?さっき言ってくれたもんね?」


私がニールを涙目で見つめると、彼は優しく微笑んでくれた。


ああ、やっぱり君は良い子だな「んな事言ったっけ?」…おおおおおおい!!


「大丈夫だ!お前なら魔族相手でもやっていけるって!」




3人の三者三様の表情に、私は肩を落として答えるしかなかった。


「………………頑張リマス…」




紫藤葉流(しどう はる)26歳。

己の行動が日々お馬鹿になるのを猛省しながら、待て次回。









……………殻に籠りたい…………。

神話の下りはギリシャ神話のハデスとペルセフォネのお話です。

しかし主人公がお馬鹿になりすぎているような…。でもお馬鹿な方が書きやすい。

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