農作業と鳥と蛇と刺身のツマな私
答えを出せないまま、数日が過ぎた。
誰かに相談しようにも、あれから神殿はおろか森に近づくことが怖くなってしまっているし、陛下はそもそも簡単に会える人物ではない。
ニールに一度だけ相談したら
「別に気にしなくていんじゃね?」
と軽く言って女の子とデートに行ってしまった。
あいつは頼りになるのかならないのかわかんねぇな。
陛下から私を庇った時一瞬でもキュンとした私を返してほしいという気持ちを込めて2発ほど殴らせてほしい。
あまり悩んでも答えが見つからない為、気持ちを切り替えて仕事に精を出すことにした。
品種改良をしてみたいとギルドに問い合わせると却下されてしまった。
何でも品種改良するにはある程度の実績がないと駄目らしい。
改良に成功すれば良し。失敗すれば収入はゼロ。いつ実を結ぶかもわからないのでお金に余裕がある人じゃないとすぐに破産してしまうんだとか。
よってギルドのランクが下位の者には承認されない。
まあ、博打みたいなものだしね。
……と、まあ今のはあくまでも仕事に関する話で。
家のプランターで趣味で2種類の花を育てて、それがたまたま受粉の過程で新種の花を咲かせることがあるかもしれない。
……いや、これはあくまで趣味の範囲だ。
今育てている花以外に購入する気はないし芽が出たらラッキー位にしか思ってないから、本当に観賞用なんだ。
…うん、誰に弁解しているんだ私…。
…そんな訳で密かな趣味も出来た私は今新しい種を購入して畑に蒔いたんだけど…。
「…これは難敵だ…」
新しい種はフーカという葉物野菜の種。フーカは見た目はほうれん草っぽい。というかほうれん草だ。味も同じなので懐かしくなってよく購入していたんだけど…。
「枯れやすい…」
ガックリと肩を落とした私の目の前には、枯れて萎びたフーカ。
ギルドによれば5日で芽が出て3日後に収穫できると言われたので3日後の朝に畑にやって来たのだが…。
「あらハルちゃん、フーカを育ててたのかい?それは早朝に収穫して根を水に浸さないとすぐ枯れてしまうんだよ」
と、通りすがりに近所のおばちゃんが話してくれた。
…うわぁぁぁん!水って何それ聞いてなーい!
あれ?そういえば店で売ってる時根っこは水に浸してあったな…。
っていうか枯れるの早すぎだろ!昨日までまだ芽の状態だったから油断した!一夜にして成長するとは!枯れるまで5時間とかあり得んだろ!
元の世界のほうれん草を見習え!小松菜でもいいよ!
ん?前にテレビで農家の人が陽が昇る前から収穫するとか言ってたな。あれは何の野菜だったのか…。
そうか!全ては私の勉強不足のせいだな!はははは!
……はあ。何だか疲れちゃった…。
今日の収入はゼロ…。ギルドでポタの種を買ったからゼロどころかマイナスだ…。
そんな訳でとぼとぼと家路につく私。
お昼前の住宅街は人気がない。
流石にこんな時間から家でボーッとするのもな…。
魚釣りでもするか…。
釣り道具を取りに家に戻ると。
『光の中現れたのは1羽の黒い鳥と1匹の白い蛇だった』
……ああっ!何故先日の陛下の言葉を思い出すんでしょう!
何故かって?それはね。
我が家の玄関に!今まさに黒い鳥と白い蛇が此方を見上げているからなのですよ!!
…………黒い鳥って言うからてっきりカラスかと思ったんだけど、光沢とか嘴の色も違うな。あと足が猛禽類の足ですね。綺麗な鳥だなぁ。
って違ぁぁぁぁう!
そこじゃない!注目すべき点はそこじゃないぞ私!
そこじゃないんだけど……
私は辺りを見回す。よし、誰もいない!
今からやることは端から見れば怪しいから。
私は鳥と蛇に向かい、
「サミエルとかいう名前の鳥は手を上げて~」
シュバッと勢いよく右の羽根を上げる鳥。
……………うん。無表情だけどドヤ顔してるのがわかる。
そして白蛇さん、呆れたような顔をやめてください。
素早く玄関の鍵を開けて私は
「早く中に入れ(超小声)!」
とドアを開けて1羽と1匹を家に入れる。
それから道路に面する窓のカーテンが閉まっているかを確認する。
これがバレたら大騒ぎとかそんなレベルじゃない!
「………………とりあえず」
リビングにあるソファーに座る彼らを睨む私。
「……何で森から出てきてんのよ!」
私の疑問に鳥は
「そなたが来ないからであろう!」
と羽根を腰(?)に当ててふんぞり返る。
この野郎。私が悪いってか?
「森から出られないんじゃ…って、えっと…」
そういえば白蛇さんの事は陛下の話からしてサミエルの副官のカナタさんだと思うんだけど、初めましてなんだよね。声は聞いたことあるけど。
「…えっと、初めましてハルと申します」
白蛇さんにお辞儀をして挨拶をすると、
「これは名乗らずに失礼致しました。私はサミエル様の副官をしておりますカナタと申す者。お見知りおきを、ハル様」
と優雅に小さな頭を下げて挨拶をしてくれた。
わあ、何だか紳士的な感じがす
「陛下が見初めたと聞いてどんな方なのかと思っておりましたらまさかこんなちんちく…可愛らしい方だとは」
……おい、今ちんちくりんって言おうとしなかったか?
そりゃサミエルが豪華な刺身だとしたら私なんて刺身のツマ、いや、菊の飾り位だろうけどさ!例えわかんないか?ごめん、ちょっと混乱してる!
何だかこいつから胡散臭い雰囲気を感じる。
カナタカナタカナタ……………はっ!逆さまに読むと!
「まさか、田中の卷属…」
「私はナーガという種族です。タナカなんて名前の種族はありませんよ」
知ってるよ!だけど同類の気配がするんだよ!
「落ち着け、私…。落ち着かなきゃツッコミも思うようにいかない…。お茶でも飲むか…。2人も飲む?」
「うむっ!」
「(どうせ安い葉でしょうが)いただきます」
………あいつ腹立つわー…。本当に安い葉使うぞこら。
あれ、そういえば…。
「でも鳥と蛇にお茶って大丈夫なのかな?水の方がいい?」
私がお湯を沸かしながら小皿に水を入れようとキッチンから告げる。
「ああ、それならば問題ない」
サミエルが右の羽根を掲げると、羽根の先から光っていき…。
そこには漆黒の羽根を持つサミエルと白銀の髪を腰まで伸ばした褐色の肌のイケメン…。但し下半身は白い鱗に覆われた蛇。
そりゃあ、私がちんちくりんに見えるわ。この2人がソファーに座ってるだけなのに絵になる。
…………って
「ほわああああああああっ!!!」
見惚れてる場合じゃない!何で人型になってるんだよ!?よくよく考えて私最近森に行ってないから扉開いてないんじゃないのか?!
「うむ!見事な混乱ぶりだな!
何を考えているか当ててやろうか?まずは扉は開きっ放しだから此方に来ることは容易であるし、そもそも前に神殿まで行っているではないか」
あ、確かに…。鳥の姿は結界がまだあったから本体が来られないからであって、結界がない今普通に来れるんだ。
「先ほどの姿は他の人間の目を欺くためよ。そなたも家の玄関に余が立っていたら驚くであろう?」
……鳥と蛇のコンビでも驚いたけどね…。
その時だ。
コンコン、と玄関の扉を叩く音がする。
さっきの叫び声が近所迷惑になったか?お昼とはいえ流石に煩かったか…。
私はサミエル達に人目を避けるよう先ほどの姿になるように促す。2人が鳥と蛇に変化したのを見計らうと玄関に移動する。
「すみません、煩かったですよ………ね……」
扉を開けると、そこには
「来ちゃった(ハートマーク)」
………ああっ!何故家で恋人と一緒にいる時にアポなしで来た浮気相手(逆パターンでも可)みたいな台詞を言うんですか!
「陛下っ!」




