魚釣りは楽しい…な?
あれから3日経った。サミエルにはあれきり会っていない。
1度だけ森に入ったんだけど神殿と扉の分岐点に来た時に声だけ聞こえた。
『ハル~!!余の嫁がそこにいるのだ!退け!カナタ!!』
という叫び声の後に男の人の声で
『公務が残っています。終われば解放してさしあげますよ。…10日程寝ないで働けば終わりますよ』
『…神か貴様は!蛇の姿をした忌々しい神め!』
『何とでも仰ってください』
………私はそっとその場を後にして神殿まで走った。
…魔族にとって神は悪口に入るんだね。
「嫁、ねぇ…」
初対面の時程嫌ではない。たかが数時間一緒にいただけなのにどうにも嫌いにはなれないのだ。
…正直に言うと顔もイケメンだし性格も面白そうだし(まだよくわからないけど)、人間にはない羽根も似合うし、何より声が!声が良い!少し掠れたような低く甘い声が耳元で囁いた時なんて……
『またな、ハル』
あの声を思い出してボッと顔が赤くなる。
「~~っ!余計な事は考えずに今は目の前の獲物よ!」
頭を振って私は目の前を流れる川を睨む。
はい、今日は魚釣りに来ました!
とは言っても漁業ギルドには入ってないから納品は出来ない。魚釣りは自由にしていいので今日の晩御飯を釣りに来たのだ。
私は釣竿を垂らすとその場に座って魚がかかるのをじっと待つ。
「狙うはカザ!」
カザは一般的な川魚で見た目は鮎っぽい。
「塩焼きにすんの?俺の分も釣ってくれよ」
さも当然といった感じで右隣に座るいつもの男。
「自分で釣りなさいよ。…で?今日は何?」
シスターに夢中な彼とこうして話すのは3日振りだ。
「……あー、ほら、最近話してたシスターいたじゃん。教会の」
うん、二股してるシスターね。…シスターって神に仕えてて生涯独身とかじゃないの?この世界は違うのかしら?
「…あの人さ…。他に男、いたんだよね…」
あー…。知ってしまったのか…。
「8人も」
「…はっ!!!」
…ち、またって……凄いです、ね…。
何だろうその人。本当にシスター?コスプレじゃなくて?大丈夫かこの国。
「…ニールは顔もいいし性格も(女性にかなり)優しいからもっといい出会いがあるよ」
「うん、今は騎士団長の孫のリリーちゃんがいいなって思ってるんだ!」
知ってたー。こいつこんなんだったわー。ちょっとでも励ました自分を殴りたい。1番はこいつを殴りたい。
「落ち込んでないならいいわ…」
時間を無駄にした。釣りに専念しましょう。
釣竿に目線を戻し横の男の話に適当な相槌を打つ。
「俺、将来は騎士団員になりたいんだよ…」
「ほうほう」
「そう言えばこの前市場に行った時に…」
「へぇ~」
「王女様って可愛いよな!」
「気が多い男ってサイテー」
「誉めるなよ」
「どこがだ!」
あー、釣れない。時間が経ちニールのいらん情報だけが増えていく。
私、釣りの才能ないのかな…?
それとも場所?
釣り場を変えようかと考えていたその時。
「隣、いいかな?」
左隣から男の人の声がしたのでそちらを向くと美中年のおじさまが。
この世界って何気に整った顔の人多いんだよね。
私みたいなモブ顔の方が珍しい。
でもこの人どっかで見た事あるんだよなー。まあ、小さい国だから挨拶くらいはしてるのかなー?
「どうぞー。私はそろそろ場所変えようかなって思ってたんで」
つんつん
右隣にいたニールが私の肩をつつく。
何?と訝しげに視線を移すと、真面目な顔をしたニールがいた。
「陛下」
「へ?」
「その方、この国の国王です」
「………え?」
もう一度左を見ると、美中年のおじさまがにこにこしている。
…後、後ろの方に護衛らしき人物が3人。
「…えぇっ?!国王って…だってパンフレットに載ってた人と…」
「あぁ、あれ?…写真写り悪いんだよね、私」
照れくさそうに頬を掻く仕草が似合う美中年て貴重だと思うんだよね。
…ってそうじゃない。思わずニールの方を見ると跪いて頭を垂れている。
慌てて私も跪く。
「2人とも、畏まらなくていい。今日は農作業のついでに寄っただけだから」
………今この人農作業を仕事って言った気がする。それは国王の仕事ですか?いや、農作業は悪くない……公務はいいんスか?
ちらっと陛下を見るとにこにこしている。その後ろで護衛の人が苦笑いをしていた。
…ご苦労様です…。
「ありがとうございます。…あの、それでは私はこれで…」
陛下の釣りの邪魔をしないようにとその場を去ろうとした時
「ああ、今日は君と話をしたくてね。
サミエルに、会ったらしいね」
全身から血の気が引いた気がした。
陛下は笑っている。否、目が笑ってはいない。
周囲に纏う空気が一気に下がった。
その殺気を察知してニールが私を陛下の視界から遮るように前に出る。
……そうだ。この国からしたら魔界の扉が開いたという事は重大。
それを開けてしまった私という存在は危険で厄介。はっきり言って大迷惑な存在だろう。
もしかして、私投獄されるんじゃ…いや、もしかして処刑…
だったらニールを巻き込む訳には…!
「なーんて、冗談冗談!大丈夫、君をどうこうしようとは考えていないよ」
パッと殺気を消して笑う陛下。その目に優しい光が戻る。
「私もね、昔サミエルに会ったんだよ。懐かしくなってつい、ね。
…ごめんごめん、ほらオルソン君も警戒しなくていいよ」
唖然とする私とニールをなだめる陛下。
「からかいすぎですよ」と護衛に注意されて頭を掻いている。
「報告を聞いて、君に話しておきたい事があってね。
…異世界から来たのなら尚更この国や魔界、君の称号。過去この国で何が起きたのか。色々知ってほしいんだ。
ただ場所が場所だけに話しづらいんでね。城まで来てくれるかな?」
…断れない。いや、この国の最高権力者が自ら出向いているのだ。断る、という選択肢はない。
この国の歴史は神殿の魔術師さん達からそれなりに聞いてはいた。
だけどきっと違う歴史を陛下は語ろうとしている。
「…わかりました…」
「ありがとう。それじゃあ行こうか」
「…陛下。俺…私も同行してもよろしいでしょうか?」
「ニール…?」
数秒、陛下とニールの視線が交わる。
「構わないけど、娘に近づいたら殺すよ?」
…っひょおおおっ!!さっきの殺気がニール向けて放たれる!ダジャレじゃないよ!
うん!今度は本気ですね!
「(…ちっ…)はい、勿論です。さあ行こうハル」
…小さく舌打ちしたの聞こえたからな?止めとけよ。本気で死ぬぞ?
そんなこんなで私とニールは陛下と共に城へと向かう事になった。
…釣りをしていたらまさかこんな大物がかかるなんて…。
先日、生まれて初めて目が腫れて涙が止まらない。というのを経験しました。
…恐るべし、猫アレルギー…。猫に近づけない。辛い…。




