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異世界でのスダ・マサユキ

 あれから一年ほど経っただろうか。

 無事と言っていいのか分からないが俺は異世界転生し、スダ・マサユキとして生きることになった。

 それも転生だというのに赤ん坊からのスタートではなく、九歳という微妙な歳からで。


 初めの数ヶ月こそ死んだ時のトラウマで家にこもっていたが、時間が経つにつれて体も心もかなり安全な状態になった。


 そうなればこの体でのメリットは子供だから多少のイタズラや不良行為が許されることだ。

 この世界のことを全く知らなかった俺はこの方法で友達や仲のいいおじさんおばさんを増やしつつこの世界がどういう状況にあるのかを教えて貰える範囲内で調べ尽くした。

 その結果、この世界は発展した国だと近代的な技術も存在する剣と魔法のファンタジー世界ということが分かった。


 そして今現在、この世界は人間を筆頭にした共和国と魔王を筆頭にした独裁国家との戦争真っ只中であり、国の偉い人たちは打倒魔王のために唯一魔王を倒すことの出来る存在である「勇者」探しに明け暮れている。


 俺の住んでいる国マルクォスは中世ヨーロッパ風味な国で、街にはいつも物を売りに遠くから来た商人が場所に乗ってあちこち動き回っている。

 治安に関しても二十四時間いつでもどこでもカッコイイ鎧を着た騎士たちが二人以上で徘徊しているため比較的いいほうだと言える。


「おはよ〜……やけにうるさいけど外は何してるの?」

「あ、やっと起きたんだ。外は新しい勇者素質のある戦士が誕生したって大騒ぎしてるんだ」


 こんな平和そうな国でも勇者探しを積極的に行っているぐらいだから魔王を倒すには絶対に勇者が必要不可欠というのがこの世界の常識なのだろう。


 ……まあ、たとえ俺が勇者に選ばれたとしても絶対に拒否するけど。

 いいじゃん。俺だけが選ばれたとかじゃないし。そういうのは選ばれてやりたい人がやるのが一番ベストだと思う。


「それよりさ。今日は職探すんじゃないの?」

「そのつもりだけど……。マサユキこそ今日は学校行かないのか?」

「聖騎士の試験日だから休みだよ。姉さんもそれで朝から外出してたでしょ」

「え、試験日って今日だったのか!? それなら弁当ぐらい作ってやればよかったな……」


 兄スダ・マオは元々冒険家だったが、旅の途中で盗賊との戦闘で仲間を失い、その時のいざこざが原因でチームは解散。ソロでの冒険は厳しいということで一ヶ月前に家にやって来た。

 今は仕事を探しながら家の家事もしつつのんびりと生活している。

 羨ましい限りだ。


 姉スダ・マユキはずっと一緒に住んでいるのだが、国を護る騎士志願のため家を開けている時間の方が多い。

 今の俺は十になったばかりの子供だから兄が家に来るまではかなり無理をして早く帰ってきていたが、兄が来てからは夜遅くに帰ってくるのが当たり前になってきている。


 両親に関しては兄も姉も何も話したがらないし聞いても「いつか帰ってくる」しか言わないから多分死んでいるのだと思う。

 こんな世界だ。俺が物心ついた時には魔物や盗賊なんかに殺されてしまったのだろう。

 違う理由があるかもしれないが、いずれ話してくれる日をゆっくり待つしかないだろう……。


「聖騎士になれば帰りも早くなるし休みも多くなる。連休があれば旅行も悪くないな」

「旅行!!?」


 旅行か。それも悪くないかもしれない。

 思えば俺はこの国以外の国を知らないし知る手段も持ち合わせてない。

 今のところ学校の授業も国語と算数、それから魔術班、武術班、弓術班に別れての戦闘授業のみで歴史や地理に関してはまだ習っていない。

 いずれ友達が出来れば友達同士でも旅行に行くと思うが、その為にも早く地理は覚えておきたい。


「旅行行ってみたい!」

「だよな! お前もいつか冒険家になるかもしれないし、今のうちから世界を見て回るのもありだと思うんだ!」

「……あー兄さん。俺は冒険家になるつもりはないから」


 異世界でファンタジーな世界だから冒険も悪くない?

 たしかに昔は一度くらい考えたし憧れもした。男のロマンみたいなものだろうと思っている。

 でもダメなんだ。転生した時よりは落ち着いたけど、未だに俺は戦闘云々というのが怖い。

 あんなボウガンで殺されるなんて経験をして、それでも人間不信になっていないだけ俺のメンタルは強い方だと褒めてあげたい。

 それほどあの死というものは俺の中でトラウマになっていた。


 冒険家になるということは、魔物と戦わなくちゃいけない。

 戦うということはいつどんな状況で殺されるかもわからない。

 おっさん曰く俺には不思議な力があるらしいが、それで無双できる保証なんてない。そんな状況でその力なんて使ってしまった日には俺は悪魔とかなんかヤバいのに狙われる格好の標的になってしまう。

 そんなの、死んでもゴメンだ。いや、死にたくはないけど。


「でも先生から聞いたぞ。国語さえ出来れば勉学も武学も成績上位だって」

「俺がやってるのは魔術だけ。将来は学者になって国で大人しく生活するんだ」


 計算だって中学レベルまでなら完璧だし国語もひらがなのようで難しくはない。

 だからこそだろう。兄はそれを不満そうに聞いていた。


「……時代が変わると人も変わるって言うけど、お前は特に浪漫がないよな。先生が褒めるぐらいに魔術が使えるなら一回ぐらい冒険とか憧れたりしないか?」

「そりゃあ全くないとは言い切れないよ? でも、それ以上に死ぬのが怖い」

「……誰だって死ぬのは怖いさ。でも、それで世界を知らないのは勿体ないと思うけどな」


 そう言われるとそうかも……と思ってしまう。

 いかんいかん。何がなんでも冒険家なんてものにはならない。

 自分の命が一番大事なのだ。


「冒険家はいいぞー。色んな人とのコネもできるし金も沢山貰える。あとは冒険飯も当たりハズレあるけど美味いし、お前の顔ならモテるかもしれない」

「兄さん。その話詳しく」


 あと少し近付けばキスするじゃないかというぐらい兄との距離を縮めると兄は驚いて一気に後ろに下がった。

 さすが元冒険家。動きに無駄がない。


「お、おう。その様子だと学校であまりモテてないのか?」

「どうしてモテること前提なんだよ……」

「顔も悪くねえし成績優秀で性格も俺から見ればいい。女の子の一人や二人ぐらいいると思うだろ」

「そんなものかな……」

「そんなもんだ。でも、モテてないなら尚更冒険家はいいぞ? 実際に俺の仲間でも冒険者になってからモテまくった奴を何人も見てきた」

「……モテまくった」

「俺から見てもお前は自慢の弟だ。冒険者になれば絶対にモテる。だからどうだ? 興味が湧いてきただろう」


 そんな漫画みたいなことがあるわけないといつもなら言っているが、この世界は魔法といい魔王といいそんな漫画みたいな世界ではあるんだ。前世の常識が通用するとは思わない。


「……ま、まあ。冒険家に全く興味はないよ?」


「でも、すこーしくらいなら兄さんに付き合う形ならいいかなー…………って。本当にそれだけだから!」


 

 本当に、きっかけは本当に自分の欲だった。

 生前モテるという経験がなかった俺はそんな甘い言葉に誘惑された。


 ……そうして俺が冒険沼にハマってしまうのに時間はかからなかった。

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