プロローグ―こうして俺は死にました―
――思えば、全ての始まりはあのくそったれなおっさんのせいだった。
俺の名前は須田雅之。現在もっともリアルが充実することで有名な華の高校一年生。
この名前のニュアンス的なあれが某有名な俳優と似ているとかいう謎の理由でついたあだ名は「すだまさ」だ。まあ自分で言うのもあれだが顔面偏差値は同学年や後輩、先輩の誰もが認める上の中か上の下くらいと高評価。
そんないい感じの名前やルックスとは裏腹に俺の趣味は読書&ゲーム&アニメ。
要するにクラスに一人ぐらいいる何故かパリピ……パーリーしているピーポーに絡まれちゃう系オタクだ。
事の発端は夏休み二日目の夕方頃、せっかくの夏休みということで自室でアニメとゲーム三昧をしていると親に夕食の買い出しを頼まれてやむなく外に出のがきっかけだ。
自転車で十五分程度のスーパーで買い物を済ませて帰ろうとした時、突然ヤツは現れた。
「はぁーい、すだまさちん!」
とても強烈だった。
三十過ぎに見えるオッサンが、全身から滲み出るどこにでもいる中年サラリーマン風なおっさんが、俺に声をかけたのだ。
しかもすだまさという学校の友達しか知らないはずのあだ名にちんまで付けて。
ただただ気持ち悪くて俺はそいつと関わりたくない一心で早足に家に帰ろうとしたが、何故かおっさんは平行移動で俺の後ろを付いてきやがった。
平行移動とかいう謎の動きにビビった俺は腰を抜かし、ついにおっさんと真正面から向き合うという最悪の事態に陥ってしまう。
「……あ、あの? どなたで?」
「やっと話をしてくれたね! 私は神だ!!」
……今思い返しても色々と頭が痛くなる。
そう。そのおっさんは自分を神と名乗り、なんかアニメの天使がよくやる両手を広げるポーズをとったのだ。
その瞬間から俺の逃げたい欲は更に強まったのだが、こういうタイプの人間は無視して逃げると後々面倒なタイプだ。だから軽く相手して帰らせるのが一番いいと考えてしまった俺は話を聞いてしまった。
「あーなるほどーすごーい」
「そうだろう? ということで、私はある大事なお願いがあって君に近付いたんだ」
たしかそんな話をしていた気がする。
正直言うとこの時の俺は適当に聞き流すモードに入っていたためにあまり覚えていない。
そんな会話が二分ほど続き、俺は切り上げるタイミングを見失ってしまっていた。
「――それでだ。本来ならその世界に君が生まれるはずだったのだが、我々の転生ミスで間違ってこの世界に君を誕生させてしまったのだ」
「そうなんですかーへー」
「しかし、君の魔力や能力は成長するにつれてこの世界に大きな影響を及ぼしかねんという意見になった」
「なーるほどー」
「そこでだ、君を本来いるべきだった世界に戻そうという提案で満場一致した我々はこの世界の君を一度殺すという話になったのだ」
「へーへー……」
「……………………へ?」
こいつは、今何を言った?
「いや……あの、今なんて?」
「この世界の君をそのまま転移させると死後の判決で閻魔が困ってしまう。だが本来いるべきだった世界に君の存在は必要となる力を宿してしまっている」
「そんなこと聞いてないんだよ! 今、殺すとかどうとかって……」
「問題ない。痛みはないようにすぐに転生させてやる」
それは生きてきた中で見たことのない……心底可哀想なものを見る人間の目というものだったと思う。
どこから取り出していたのか、いつの間にかおっさんはボウガンを俺に向けて構えていた。
ここで初めて自分がどういう状況に巻き込まれてしまったのかを改めて理解し、後悔した。
こんなイカれた人間にちょっとでも関わってしまった俺が間違いだった。
今からでも遅くない。早く逃げてしまおう。
「……え……あ、れ……」
逃げたい。
逃げたい。
……逃げられない?
「暴れられても困るから金縛りを掛けておいた」
「金縛り……?」
金縛りをかける? そんな、アニメや漫画の世界じゃない非現実的な話を信じれるわけがない。
そう口にしたいのにもはや俺は喋ることすら困難になっていた。
「う……ぁ……」
辛うじて口は動かせるが、叫んで誰かに助けを呼ぶということは出来ない。
動けず、助けも呼べず、周りは何故か人の気配すら全くない。
完全に詰みだった。
「安心してくれ。容姿はその世界でのイケメンを基準にしたものに転生させる」
「ぅ……うぅ……!!!」
必死の抵抗というものも出来ず、ただ静かにゆっくりと時間が進んでいく。
よくテレビで人が死ぬ時に過去を思い出したり家族に対しての遺言みたいなものを心の中で話している描写があるが、あまりに理不尽な死を迎える時に人はそんなものを考えないものなのだと感じた。
俺が感じたのは、何故? どうして? 訳が分からない。そんなことしか思い浮かばなかった。
こんなことを考えている間にボウガンで脳天を貫かれて死んだ……のだと思う。
俺の中でずっと疑問だけがグルグルと回っていたのが突然意識すら途切れてしまったからだ。
即死だと思うから死体がどうなったかも分からないし、正直自分の死体を見たくもない。
……須田雅之という華の高校生だった男は、この時絶命した。