ヤンキーと恋
恋ってやつは突然なんだよ。
いいか。
惚れるってのは理屈じゃねえんだ。
マブいから惚れる、んじゃねえんだ。
カッケーから惚れる、んじゃねえんだ。
惚れたから、惚れてるんだ。
人間ってのはそういうもんなんだ。
好みだからとかよ。
イケメンだからとかよ。
そんなのは後付けなんだ。
まず、惚れるんだ。
惚れてから、その理由をくっつけてるだけなンだよ。
人を好きになるってなァ、そういうことだ。
ンでよ。
俺ァよ。
久し振りにマジになっちまった。
俺には結婚を約束してる女がいるってのに。
俺はそいつのために命を捧げると決めたってのに。
まったく、人間ってのは本当に馬鹿な生き物だ。
俺は──禁断の恋に落ちてしまったんだ。
そう。
出会いは突然だった。
俺はその時、いつものようにYouTubeでスズキ・カタナの動画を見てたんだ。
イカちぃ改造しやがってるゲテモノバイクを見てたんだよ。
するとよ。
オススメの欄に、ふと、緑色のサムネイルが見えたんだ。
あの"緑の奴"がバイクの歴史を解説してたんだ。
そしてその画面を見た瞬間。
俺の脳ミソに電流が走った。
まるで雷に打たれたみてーによ。
体中が痺れたんだ。
なんて可愛いンだと思った。
こんな可愛い女がいンのかと思ったんだ。
そう。
それが俺と"彼女"との出逢いだった。
気付いた時にはもう遅かった。
もう、惚れてたよ。
あ?
婚約者のことは愛してないのかって?
馬鹿野郎!
そんなわけねえだろ!
俺ァユミを愛してる!
心の底から愛してるンだ!
あいつのためなら死ねる!
あいつのためなら命なんて捨てられる!
ユミのためなら!
俺ァ、ユミのためだから、生きていけるんだよ!
……けどよ。
……それでもよ。
惚れちまった。
惚れちまったンだ。
あの声。
あの姿。
あの口調。
あの語尾。
もう、頭から離れねぇンだ。
……。
…………。
………………。
……………………。
………………………………ずんだもん。
畜生。
なんなんだよ、あの野郎。
可愛すぎンだろ。
大体、あの野郎は男なのか女なのか。
"彼"なのか"彼女"なのか。
生えてンのか生えてねェのか。
生えてない方が嬉しいのか。
生えてると悲しいのか。
それとも、生えてる方がお得なのか。
謎。
謎じゃねェか。
恋はミステリーたぁよく言ったもんじゃねェか。
俺ァ学がねェからよ。
難しいことは分からねェ。
ユミを愛してる。
けど、ずんだもんも愛してるンだ。
この恋は許されるのか。
許されねェのか。
ユミは許してくれるって言ってた。
おう、そうだよ。
俺ァ隠しごとなんて出来ねェからよ。
正直に、洗いざらい、ユミに話したんだ。
そうしたらよ。
あいつは許してくれるって。
本当、あいつの愛は海より深ぇよ。
あいつは愛のYAZAWAだよ。
愛のロックンロールだよ。
……………………。
…………。
……まあ、若干意味分かんねえけど。
とにかく、ユミは許してくれた。
だけどよ。
それで良いのかって。
それで俺ァ男として間違ってねェのかって。
そんな風に悩んでんだ。
ユミ。
ずんだもん。
どっちも、思い浮かべると心がキュンとすんだよ。
こんな浮気モンがよ。
許されるわけねェよな。
だから、今日、ここで決める。
ユミか。
それとも、ずんだもんか。
……。
…………。
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………………………………ユミだ。
あたりめーだよな。
俺にはユミしかいねえんだ。
最初から、ユミしかいねえんだから。
俺はもう、一生ずんだもんは見ねェ。
Xのフォローも外すし。
YouTubeのチャンネル登録も外す。
同人誌も全部売る。
pixivもお気に入りごと削除する。
俺の視界からすべてのずんだもんを削除するぜ。
よし!
そうと決まったら善は急げだぜ!
今から──
さっそくアカウントの整理をしてくるのだ!




