ヤンキーと冤罪
いやー、すまないね。
こっちから呼び出しておいて随分遅れてしまった。
それじゃあ早速、話に入ろうか。
えっと、それで今日は息子のダイゴが使ってるインスタのアカウントを乗っ取るやり方を教えて――
うん?
その前に?
今日は何で遅れたのかって?
さすがに8時間遅刻しといてその理由くらいは話して欲しい?
ああいや、そうかそうか。
さすがにそうだよね。
いやね。
今日は仕方なくてね。
何を言っても言い訳になっちゃう訳だけど。
今日はもうこれ、やんごとなき理由があってね。
そう。
国家権力。
国家権力に身柄を拘束されていたんだ。
あはは。
いやいや。
すまない。
そんな大層な話じゃ無い。
無論、無辜な一般人には恐ろしい出来事かもしれんがね。
私にとっては日常。
90年代のギャルゲーに出て来るお下げメガネヒロインくらいありふれた存在なんだ。
うん?
何があったんだって?
いやね。
今日はここに来るために、朝一で電車に乗ったんだ。
ああいや、そう、ここに来るにはバスを乗り継ぐのが1番なんだけど。
私は昔から電車が好きでね。
電車というか、"満員電車"が好きでね。
いつも用事も無いのにあえて満員電車に乗ってるんだ。
狭いところが好きなのかって?
いやいや、別にそんなことはないよ。
むしろ嫌いなくらいだ。
しかしね。
満員電車ってのは、ほら、「アレ」がしやすいだろう?
え?
アレとは何だって?
いや、こんなファミレスで言うのもちょっと気が引けるんだが……。
アレだよ、アレ。
AVとかでよくあるじゃないか。
エロサイトでも確実に人気のジャンル。
満員電車、エロサイト。
この2つでもう分かるだろう?
そう、「アレ」だよ。
おっと、ちょっと待ちたまえ。
私の話を聞きたまえ。
とりあえずそのスマホを置きたまえよ。
さっきまで警察に居たんだから。
またあそこに行くのはごめんなんだから。
そうそう。
良い子だ。
私の話を最後まで聞けば、私が犯罪者ではないことが分かってもらえる。
うん?
結局、触ってはいないのかって?
うーん。
それはまあ、ね。
触ったか触ってないか、と言われればね。
それはもう――
触ったよね。
撫でたよね。
撫で回したよね。
さらに揉んだよね。
揉みしだいたよね。
情熱的に。
偏執的に。
官能的に。
とにかく、揉んだよね。
だから警察に捕まったんだから。
近くにいた正義感溢れる若者にふん縛られたんだから。
……いやいや、だからスマホを置きたまえ。
さっき言っただろう?
私は警察に居たんだ。
そこから逃げて来たわけじゃ無い。
私は釈放されたんだ。
聴取の結果、合法的だとされたんだ。
まあ、無論、ギリギリのラインだったろうけどね。
とにかく、私は桜田門から「無罪放免」だと認めてもらったんだ。
だから、私は今、ここにいる。
……ん?
一体、何があったのかって?
まあ、一言で言えば。
"早とちり"だったわけだ。
私を捕まえた青年が、勘違いしていたんだ。
まあ、仕方が無い。
あれだけの満員電車だ。
誰がどうなってるのかなんてよく分からない。
誰の腕がどう伸びていて、誰の足がそこに立ってきて、そこにあるのが誰のお尻なのか、誰の手のひらなのか、その辺りがグチャグチャなんだ。
だから、私の腕がどう伸びているのかも分からなかった。
だから、勘違いをして、次の駅で私をふん縛り、駅員に突き出したわけだ。
え?
じゃあ、冤罪だったのかって?
触ってなかったのかって?
いやいや、だから言ってるだろう。
それはもちろん――
触ったよ。
お尻をね。
撫でて撫でて撫でまくった。
いやらしく。
エロチックに。
ねっとりと。
撫でまくった。
なんならアナルに指まで立て――
……いや、ちょっと待ちたまえ。
話は最後まで聞きたまえ。
いくらなんでもいきなり平手打ちをすることはないだろう。
え?
許せない?
ここからどんな話があっても、そこまでやってる人間を許せるわけない?
うん。
そうかもしれないね。
私は公共の場で自らの欲望を果たしていた。
決してやってはならないことだ。
やってはならないことをやり、そこに興奮していたのだ。
最低だ。
最低の人間だよ。
けれども、ギリギリ合法だった。
この国の行政はセーフだと認めた。
それは紛れもない事実だ。
私が私を最低だと言ってるのは、あくまでも倫理観の話だ。
道徳観の話なんだ。
良心・良識という法による罪と罰があるなら、私は大罪人かもしれない。
けれども、セーフだったんだ。
私は無罪放免になったんだ。
え?
そろそろ教えてくれないかって?
あなたが今、下半身だけミニスカートを履いてることと関係してるのかって?
うん。
そうだね。
関係あるか無いかといえば――
死ぬほどあるよね。
というか、それが全てだね。
そう。
私はね。
"自分"で"自分"のお尻を触っていたんだ。
あの時。
あの満員電車で。
私は自分のお尻を、撫でまくっていたんだ。
そこを、あのイケメン青年にとっ捕まった。
彼からしたら、無我夢中だったんだろうね。
さっき君が私をビンタしたように。
彼も、撫でられてる尻を見て、カッとなった。
ろくに確認もせず、正義感が爆発した。
こいつは許せない、と、理性が飛んだんだろう。
私が言うのもなんだが。
素晴らしい青年だよ。
ええ、ええ。
本当に素晴らしい。
この国の未来は明るい
増税だの少子化だの暗い話ばかり話題になるが。
この国には、素晴らしい若者たちが溢れてる。
彼や、キミのようにね。
さ、それじゃあ、本題に入ろうか。
それで、ダイゴのスマホをハッキングするにはどうやったら――
え?
そもそも、なんで満員電車で自分のケツを触っていたのかって?
いや、キミね。
これ、説明がいるかね。
満員電車で自分のケツを触る。
そうするとね。
"触る"快感と。
"触られる"快感。
その両方を楽しめるんだ。
両方のアンモラルを悦べる。
こんなに効率の良い趣味があるかね!
人様のケツを触るなどと言うことは断じてやってはならんことだが。
自分ならセーフなのだ!
よかったら、キミも1度、やってみたまえ。




