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ヤンキーが語る昔ばなしシリーズ  作者: 山田マイク
『ヤンキー昔ばなし』
27/40

34 『ほしのぎんか』


 うす。


 今日はよ。

 ちっと俺が「ヤンキーになった日」の話をしようと思ってよ。


 それにはよ。

 まずはこの話を聞いてほしいのよ。


 昔々のことだよ。

 あるところに、心の優しいガキがいたのよ。


 こいつには両親がいなくてよ。

 すげー貧乏だったの。

 

 持っているものは自分が着ている服と、ヒトカケラのパンだけよ。

 それだけ持って、野原を歩いていたわけ。


 そしたらよ。

 向こうから腹を空かせたジジイが歩いて来たのよ。


 ガキはよ。

 自分も腹が減って死にそうなのに、持っているパンをそのジジイにあげちゃうのよ。


 んで、また歩いてたらよ。

 今度は寒くて仕方がないっつって、また別のガキが泣いてるのよ。


 ガキはよ。

 それは可哀想だっつって、自分の着ている服を脱いで、そいつに着せてあげるのよ。


 そんな調子でよ。

 女の子はどんどん自分のものを人にあげていってよ。


 最後には下着まで渡しちまって。

 すっぽんぽんになっちまうのよ。


 んでよ。

 いよいよどうしようもなくなって、ガキは夜空を見上げんのよ。


 そしたら空には一面の星があってよ。

 ガキは綺麗だなって思って見惚れんのよ。


 するとよ。

 その星が銀貨となって降り注いだのよ。

 神様が、この優しい女の子に助けを与えたんだな。


 そのガキはその銀貨で服と食べ物を買ってよ。

 幸せに暮らしたらしいぜ。


 ……俺はよ。

 このガキこそ『ホンモノ』だと思うのよ。


 人間はよ。

 自分がつれぇとき、しんどいときはなかなかそうは出来ねえ。

 それが出来る奴こそがホンモノよ。


 ……実はよ。

 俺の中学のときのダチにもよ。

 この『ホンモノ』がいたのよ。


 そいつの名前はヨシダって言ってよ。

 クソみてーに真面目で正しい奴だったぜ。

 

 正直に言うとよ、最初のころはよ。

 俺はあんまり好きじゃなかったのよ。


 なんつーか、正論ばっか言う奴でよ。

 難しいことばっか言ってて。

 ただのカッコつけだと思ってたわけよ。


 でもよ。

 ヨシダのクラスでいじめられてるやつがいたんだけどよ。

 ある日、ヨシダはそれが我慢できなくて、いじめっ子たちに一人で立ち向かったわけ。


 でも、やっぱり多勢に無勢でよ。

 いじめっ子には勝てなかった。


 そしたらよ。

 次の日から、ヨシダがターゲットになったんだよ。

 ま、よくある話だよな。


 いじめっ子は一人じゃ勝てねえからよ。

 徒党を組んでヨシダをイジメ始めたの。


 弁当に虫入れられたり、便所で水かけられたり、あとは単純に殴られたりよ。

 正直、最初にいじめられてる奴より遥かにエスカレートしてたぜ。


 ……俺はよ。

 そん時、ヨシダの味方にはなれなかった。

 

 情けねー話だけどよ。

 やっぱ怖くてよ。

 積極的にイジメることはなかったけど、シカト決め込んでたのよ。


 ま、同罪だよな。


 んで、ある日のことよ。

 俺が一人で家に帰ってたらよ。

 ヨシダが校門のとこでうずくまってんのよ。


 俺は見ちゃいけねーもんを見ちまった気分になってよ。

 足早にヨシダの横を通り過ぎようとしたわけよ。


 そしたらよ。


「みゃー」


 って鳴き声が聞こえてくんのよ。


 猫だよ。

 ヨシダの腹の下に、野良猫がいたのよ。 

 

「おい、その猫、どうしたんだ」


 って俺が聞くとよ。


「いじめられてたんだ」


 って、ヨシダはそれだけ答えたのよ。


 その時よ。

 俺ぁ、こいつぁすげー奴だと思ったぜ。

 これが『ホンモノ』だってな。


 自分がひでー目にあってんのによ。

 まだ他人を助けんのかって。

 こりゃあただのカッコつけじゃねーよって。


 ……でもよ。

 現実は「ほしのぎんか」みてーに甘くねえのよ。

 

 いくら正しい行為をしたってよ。

 ヨシダには神様も現れねーし、奇跡も起きねえわけ。


 こいつはこんなにもすげー奴なのによ。

 明日も明後日も、無視されて悪口言われて、殴られるのよ。


 俺はヨシダをどうにかしてやりてえと思った。

 俺ぁバカだからよく分かんねえけど。

 こんなのはありえねーって思ったわけ。


 でもよ。

 俺はヨシダみてーな「ホンモノ」じゃねえんだ。

 

 殴られたりすんのもイジメられるのも嫌なの。

 中坊の俺には、そこまでの根性はなかったのよ。


 だからよ。

 ニセモンの俺は、ニセモンらしくやるしかねーと思ったわけ。


 その日、家に帰るとよ。

 俺ぁまず、年玉を貯めてた豚さん貯金箱をぶっ壊したのよ。


 そんですぐにマツキヨにブリーチ買いに行ってよ。

 出来るだけ派手な金髪にしたんだ。


 それからホームセンターに金属バット買いに行って。

 帰りに知り合いの兄貴がやってる床屋で、バリバリのリーゼントにしてもらったの。


 俺は、そうしねえと戦えなかったのよ。


 俺は次の日から、ヤンキーとして学校に行ったのよ。

 いきなりヤンキーデビューよ。


 文句あるやつはかかって来いよってなもんでよ。

 金属バット持って教室に入ったよ。


 クラスの奴らは大笑いしたぜ。

 いじめっ子も笑ってた。


 俺ぁ、そいつんとこ行ってよ。

 思いっきり金属バットで、そいつの机をぶったたいてよ。

 ぶったたいてぶったたいてぶったたきまくってよ。

 

「今度俺を笑ったやつはぶっ殺す。あと、ヨシダをイジメたやつもぶっ殺す」


 っつったのよ。


 俺ぁその瞬間から、完全にヤンキーとして振舞うようにしたのよ。

 堂々とタバコも吸ったし、廊下もガニ股で歩いたし、制服もだらしなく着崩した。

 ちょっかい出してくる奴の喧嘩も、全部かったぜ。


 ダセーしカッコわりーし、最悪の中学生だよな。

 自分でもそう思うぜ。

 

 でもよ。

 そうしてる内に、ヨシダへのいつの間にかいじめは終わってた。


 そのおかげで停学になりまくったけどよ。

 おまけに、卒業まで俺にはヨシダ以外のツレはいなくなったけどよ。

 ま、悪くねえ中学時代だったぜ。


 つーわけでよ。

 俺ぁ、そっからズルズルヤンキーやってるってわけ。


 最初はニセモンのヤンキーだったけどよ。

 今はちったぁ本物に近づいてっと思うぜ。



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