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ヤンキーが語る昔ばなしシリーズ  作者: 山田マイク
『ヤンキー昔ばなし』
25/40

31 『ハーメルンの笛吹き』


 ……うす。


 わり。

 今日はちっとブルーなのよ。

 

 あ?

 なにがあったのかって?


 いつもわりーけどよ。

 ちっと聞いてくれるか。


 いやよ。

 世の中には色んな誘惑があるよな。


 キャバクラもそうだし、ギャンブルなんかもそうよ。

 どれもついつい甘い誘惑に負けちまいそうになるよな。


 ……でもよ。

 じゃあこの世界で一番の誘惑はなんだっつったらよ。

 俺ぁ――


 









 コンビニの「おにぎり100円セール」だと思うのよ。



 コンビニののぼりに「今だけ! 100円セール!」とか書かれたらもうだめよ。

 俺ぁ無意識にハンドル切ってよ。

 気付いたら店内よ。


 んで、いつもは手が出ねえ高めのおにぎりを手にしてんのよ。

 今日もよ。

 もう昼めし食ってるのに、いくらおにぎり3つ買っちまったぜ。


 ……まあ、うめえからいいんだけどよ。


 うし。

 んじゃ、今日も始めっか。


 これ、ちょー昔のことな。

 ある村が大量のネズミに襲われて困ってたのよ。


 するとよ。

 どこからかフラッと笛吹き男が現れてよ。

 村人にこう提案するわけよ。



「私がネズミを一匹残らず駆除して差し上げましょう。その代わり、成功したら報酬を頂きます」



 村人は困ってたからよ。

 即答で「おねがいします」って頼むわけよ。


 契約が成立するとよ。

 笛吹き男はすぐに笛を吹きだしたのよ。

 

 そしたらよ。

 街中のネズミが笛の音に釣られて出てきたのよ。

 笛吹き男はそのまま川へと移動して、ネズミを全員溺死させてしまうわけ。


 見事にネズミの駆除に成功したからよ。

 当然、男は村人たちに報酬をもらおうとするワケ。


 そしたらよ。

 ケチな村人たちは急に報酬を渡すのが嫌になってよ。

 約束を反故にして、男にビタ一文払わず、それどころか恩人である男を村から追い出してしまったのよ。


 ヒデエ奴らだよ。

 

 すると、だよ。

 次の日、男がまた現れて、笛を吹き始めたのよ。


 そしたら今度はよ。

 村の子供たちが笛の音に操られてよ。

 笛吹き男について行っちまったのよ。


 それから、男と子供たちは姿を消し、二度と村には戻ってこなかったってよ。


 いやよ。

 世の中にはすげー力を持ったやつがいるもんだよな。

 この笛吹き男の力は本物だよ。


 ……ただよ。 

 恐ろしい力を持ったやつと言えば――




 うちの妹の「ヤヨイ」の方が上だよ。




 いやよ。

 前にも言ったけどよ。

 うちの妹、黒魔術的な能力があんだけどよ。


 その能力が最近――




 シャレにならねー感じになって来てんのよ。




 いや、こないだよ。

 いきなり妹の部屋から、この世のものとは思えねえ“断末魔”みてえな悲鳴が聞こえて来たのよ。


 んでよ。

 急いでヤヨイの部屋の前に行ったのよ。

 そしたら、すぐに制服姿のヤヨイが部屋から出てきたんだけどよ。

 

 ヤヨイのやつ――




 何故か全身、緑色の液体まみれなのよ。




 濡れ方がどう見ても返り血なのよ。

 けどよ、そんな血の色の生物はこの地球上にいねえだろ?


 俺ぁよ。

 まじテンパっちまってよ。


「ど、どうしたんだよ、大丈夫なのかよ」


 って聞いたのよ。


 そしたらヤヨイのやつ、にぃ、って微笑んでよ。

 こう言ったのよ――










「大丈夫よ、お兄ちゃん。今回の『浸食』は私が食い止めたから」






 こえーよ!

 浸食ってなんだよ!

 うちの妹は一体どこの何と戦ってんだよ!


 ……俺がそうビビってたらよ。

 また部屋から奇声が聞こえるわけ。


 今度はまた地獄の主みてーな、恐ろしい声だぜ。

 俺ぁそれを聞くだけでちびりそうになったぜ。


 一方、ヤヨイはというとよ。

 いっそ嬉しそうな顔で舌なめずりしてんのよ。


 んで、懐から見たこともねえ形の見たこともねえ金属を取り出してよ。

 こう言うのよ――







「くくく。奴め。まだ喰い足りないか。ようし、いいだろう。それじゃあ敢えて誘いに乗ってやる。ソッチの世界に乗り込んで、今度こそ、体のヒトカケラも残らぬようってやるわ」





 だからこえーよ! 


 ソッチの世界ってなんだよ!

 こっちの世界以外に世界があんのかよ!

 お前の部屋はどこと繋がってんだよ!


 つかなんでそんなに好戦的なんだよ!

 そもそもお前はなんの使命を帯びてんだよ!

 聖杯戦争でもしてんのかよ!

 どんなサーヴァントと契約してんだよ!


 ……ってことでよ。

 これ以上ヤバそうならよ。

 おめーにもマジで一回、妹の部屋を見てもらおうと思ってんのよ。


 その時は、マジで頼むぜ。



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